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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第113話 パトリックを助ける会の暴走

「もちろん、出来るだけのことはいたしますけれど……」


コーンウォール卿夫人は困ったように言った。


目の前には、珍しく頼み事を持ってきた、ブライトン公爵夫人が緊張して座っていた。


「もちろん、リオやシエナも必死でキャロライン様の為に動くでしょう」


「よろしくお願いしますわ」


「ですが、問題は騎士団だと思いますの」


さすがはコーンウォール卿夫人。

実はその通りだった。


十二月祭り見物自体は、皆がやっていることだ。


問題は、パトリックが投獄された理由だ。


「騎士団の皆様は目の前で起きたので、投獄を知っています。でも、理由は知りません。いろんな憶測を呼ぶと思いますの」


問題は投獄理由……

エッチ罪とか強姦罪?とか?


皆がナニを想像するかだ。

だって、公爵は問答無用って、自分で言っちゃったんだもの。理由は想像にお任せしますって、意味だよね?


「ええと、それは、キャロライン様の方が被害が大きいので、むしろ、キャロライン嬢がパトリックを好き過ぎて、怒った父上が投獄したとか」


事実のまんまじゃないか。でも職権濫用。

今度は夫が罪人になってしまう。


夫の有罪も避けたいところだ。


ブライトン公爵夫人は頭を抱えた。


「とりあえず、早めにパトリック様を牢から出していただけたら……」


遠慮がちにコーンウォール卿夫人が提案してきた。


「少なくとも、パトリックは逃亡しないと思いますし」


そりゃそうだ。領地もあれば仕事もある。


「長く入れておくほど、話がややこしくなりますわ。早く出して、投獄もなかったことに……は、出来ないかもしれませんが、何かの誤解ということで、パトリック自身が騎士団の方々を説得してくれたら、一番いいのですが」


いや、ほんと。その通り。

ブライトン公爵夫人の顔色が、ますます悪くなった。

考えれば考えるほど、なんてことをしでかしてくれたのだ、あのハゲバカ脳筋公爵。自分の夫だけど。



そして、そのころ、同じく顔色を変えたシエナがキャロライン嬢のところへ馬車を急がせていた。


なにか言い訳。いい理由。

どうすれば、誰も傷付かず、パトリックを救い出せるの?


頭の中をぐるぐる回るテーマだった。


公爵邸に着くと、苦悩に満ちた表情のカーライル夫人がいそいそと迎えに出た。


「シエナ様! よくぞお越しに!」


「カーライル夫人、話はお聞きになって?」


「もちろんでございます。リーズ伯爵様が投獄されたとか」


平民出身の、ただの騎士団の一員ならさほどの問題もないのだが、パトリックはれっきとした伯爵である。社交界のメンバーになってしまっている。この間、伯爵位を継いだばかりだ。貴族界において地位も名誉もあるのだ。


りっぱな貴族を、大した罪状もないのに、牢屋へぶち込むと後が怖い。


「ここは穏便に、誰も知らないうちに兄を牢から出していただければ……」


だが、公爵邸の門の外で、突然、気勢が上がった。

大勢が集まって騒いでいる。


「カーライル夫人! 誰だか知らないけど、大勢がパトリック様を牢から出せって騒いでいるわ!」


キャロライン嬢が走ってきた。

そしてカーライル夫人と話し込んでいるシエナに気が付いた。


「シエナ! 来てくれたのね!」


「キャロライン様。兄のパトリックを牢から出してくれるよう、お父上様へのお言葉添えをお願いいたしたく参ったのですが……」


そう言いながら、シエナの目も、窓の外に釘付けだった。即席のノボリらしいものがはためいていた。


『パトリックを助ける会』


そして第一騎士団の連中が整然と門の外に並んでいた。


『パトリックの恋を認めて欲しい』


「兄の恋……」


思わずシエナはつぶやいた。うちの兄は誰かに恋していたのかしら? 兄が好きなものと言えば、酒の銘柄くらいしか思いつかない。


「パトリック様には、恋人がいらしたの? 私には誰もいないとおっしゃっていたのに」


キャロライン嬢は、ショックを受けたように、顔をゆがめて泣きそうになった。そして、そのままどこかに行ってしまった。多分自分の寝室だろう。


「キャロライン様?」

カーライル夫人があわてて後を追った。


キャロライン嬢は走り去ってしまったが、シエナは連中が次々と掲げていくノボリの文字を読み続けた。


『身分違いの恋を認めて欲しい』


下手な字で書いてある。


『パトリックと公爵令嬢の仲を認めよ』


「なんですって?」


『一夜の誤ちは永遠の恋へ続く』


シエナは走り出した。

途中で、キャロライン嬢を寝室に閉じ込めたカーライル夫人と合流した。


夫人もノボリの文字を読んだらしい。


「ダメですわ、あれは」


「何を勘違いしているのでしょう」


シエナはものすごい勢いで階段を二段飛ばしで駆け降りると、令嬢にあるまじき猛スピードで門の外へ突っ走った。


そして、騎士団からノボリを巻き上げる作業にかかった。


「あっ。何するんだ!」


「ダメに決まっているでしょう!」


シエナが銀髪を振り乱して脅した。


まず、『一夜の誤ちは永遠の恋へ続く』

こいつがダメだ。誤解を呼ぶ。シエナはあっと言う間にノボリを木の棒から外して、巻いて字を見えないようにした。


「何をする」


『パトリックと公爵令嬢の仲を認めよ』


「特別な仲じゃありません!」


取り返そうとする騎士に向かってシエナは言い放った。


美人の怒った顔は迫力がある。騎士は顔負けした。


「あっ、シエナ様」


ようやくシエナの顔を知る者に出会った。


「パトリックは、キャロライン様のことが好きみたいなので、投獄されたらしいんです」


「それ、誰からの情報ですか?」


疑わし気にシエナが聞いた。


「公爵の側近からです。なんでも、娘に寄り付かないように投獄したと」


「でも、それじゃあ、パトリックがかわいそうじゃありませんか」


「せっかく気に入った令嬢が現れたと言うのに」


彼らは口々に言った。


「そんなことより、こんなノボリを立てたら、あなた方が投獄されます」


シエナ嬢が言った。


「まるで、何かあったみたいじゃありませんか」


騎士たちはびっくりしたようだった。


「なんかあったんじゃないんですか?」


誤解。シエナはこめかみを押えた。









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