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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第108話 護衛

十二月祭りの夕方、シエナとキャロライン嬢はかわいらしい町娘の格好で、リオも裕福そうな町人の服を着ていた。


だが、パトリックは、明らかに護衛の姿で現れた。


デートのはずじゃなかったのか?


シエナとリオは、びっくりしたが、キャロライン嬢は違っていた。


「すてき」


確かにそうつぶやいた。


立派な貴族のはずなのに、なんだか貴族らしくない。騎士の格好でもない。街の金持ちの警備に雇われるような、少しやさぐれたような護衛。リオの鋭い目つきとはまた違う、ちょっと怖いような目つき。

腰に剣を下げていたが、それが、なんだかとても自然だ。


パトリックはキャロライン嬢の前に跪き、臣下の礼を取って言った。


「本日一日、護衛を務めさせていただきますパトリック・リーズでございます」


違うって言っているのに! これはデートだから!


キャロライン嬢の方を振り返ると、ちょっとほおを染めた彼女はニッコリ笑って応えた。


「頼りにしてますわ。私、街の祭りを隅々まで楽しみたいんですの」


ちょっとちょっとキャロライン嬢も、打ち合わせの時、そんなセリフなかったでしょ?


「お任せくださいませ」


律儀そうにパトリックは答えた。


「じゃあ、別行動ね」



「……もちろんです」


一瞬後れを取ったが、リオが即答した。


ジタバタするのはシエナのみ。カーライル夫人との約束はどうなるの?



しかし、否応なくキャロライン嬢と護衛は雑踏へ消えてゆき、一緒に着いて行こうと踏ん張ったシエナは鉄のようなリオの手に繋ぎ止められていた。


「シエナは、俺と二人は嫌なの?」


あああ。キャロライン様が視界から消えてしまう。


「キャロライン嬢の初恋だよ」


リオが解説した。


「パトリックは本当に見た目がいい。喋り出すと、いつものパトリックなんだけど、黙って立ってると夢の国の……王子様というより恋人だな。そんなふうに見える。本人に、そんなつもりないから、罪作りだな」


リオが苦笑した。


「俺みたいに、パッと見たまんまじゃないんだ。二度見して、細部の造りの見事さにもう一回見惚れるらしいよ。男好きな騎士の先輩が感心してた」


シエナはクルッと振り返って、リオを見た。


男好きな騎士の先輩?


「ど、どんな方ですの……?」

兄を守らなくては。声が震えていた。


お兄様、大丈夫かしらっ?


「大丈夫、大丈夫」


リオは言った。


「パトリック先輩、ああ見えて大人だよ。あの年だもん。これまでだって、その手のお誘いは散々受けてきたと思うけど、全部うまくかわしてきたんだと思うよ。さすがに王都のジェーン・ブッシュ嬢には驚いたらしいけど」


「大丈夫かしら?」


「王都と辺境地の風習の違いに驚いたんだろ。あと、ブッシュ嬢は強引で有名だしね」


リオは自分も、ブッシュ嬢からせまられた件については黙っておいた。余計な情報だ。


「ただ、パトリック先輩、公爵からの護衛の命令だと思ってるらしいけど、それ、違うからね」


シエナもうなずいた。


「でもさ、悪くはないと思うんだよね。あの二人の結婚」


一足飛びに結婚まで進むの?

シエナは仰天した。

公爵がどう思うかしら? 末娘が可愛くて、有名なのに?


「でも、家格の差が……」


「伯爵家だろ。古くからある名門じゃないか」


実はリオも利害関係者だった。

すなわちパトリックとキャロライン嬢の結婚推進派。

義姉が公爵家令嬢なんて、リーズ家にとって、ひいてはハーマン家にとっても、願ってもない良縁だ。


そして、敵は赤公爵ただ一人。


先日の夜会で、公爵夫人が沼落ちした件は、コーンウォール卿夫人から聴取した。パトリック沼だ。


「いい男。うっとりするわ。剣一筋のストイックな男だって聞いたわ、公爵様から」


自分の旦那様のことでも、外では公爵様呼びである。


「キャロラインが頑張らないと、結婚自体が無理かも知れませんのよ。公爵様が全件お断りを入れてしまって、勝手にハードル上げてしまって。お年頃の良いご縁はほぼ埋まりつつありますの。良縁を逃すバカハゲですわ」


公爵様呼びな割には、そのほかがひどい。


「キャロラインはキャロラインで不毛な推し活に邁進してるし」


推し活なさるような方は、結局賢くてよくわきまえた方ばかりですわと、コーンウォール卿夫人は、自説を披露したそうな。


「キャーキャー夢中になって、勝手に騒いでいるように見えるかも知れませんが、相手の迷惑にならないように心掛けながら、楽しんでいるのです。心が広くて、賢くなければできません」


公爵夫人は疑わしげだったが、娘を褒められて、機嫌が悪くなるわけはない。

それに夫人は夫の書斎からかっぱらってきた舶来の望遠鏡の目盛を調整するのに夢中だった。パトリックを見るために。


「いい男……」


リオはコーンウォール卿夫人からの情報を整理した上で、シエナに向き直った。


「二人で楽しんでいると思うよ。邪魔はしない方がいい。パトリック先輩の腕は実戦ならナンバーワンだ。心配はいらない」


そしてシエナの腕を取った。


「いろいろ街歩きはしたけど、恋人同士として歩いたことはなかったね。今日は十二月祭り。真夜中の鐘を二人で聞こう」


子どもの頃や、王都に来たばかりの頃は、リオに平気で抱きついたり、手を取って走ったりしていたが、今はとてもそんなことできない。


手を取られ、一緒にずっといようと言われると、シエナは真っ赤になった。

すごく恥ずかしい。


「おっと、離れたらダメだよ」


シエナがリオから少し距離を置こうとすると、途端に握る手に力がこもった。


「ダメダメ。一人歩きの女性を狙ってる男もいる。シエナは俺のもの。みんなにわかるように、絶対離れちゃダメだ」


リオは反対側の手でシエナの腰を抱いた。


「きゃ……」


「嫌なの?」


嫌じゃない。でも、すごく恥ずかしい。


……そのようなことをやっているうちに、キャロライン嬢とパトリックのことは、二人の頭から綺麗に消え去っていった。




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