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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第103話 リーズ伯爵令嬢 

そう。リーズ伯爵パトリック。


「どうしたものかしらねえ」


こっちの方は誰も面倒を見る者はいない。


リリアスより年上で、長らく辺境の警備についていた彼は、父と違って優秀だった。どんな人物かと不安だったが、意外に人当たりがよく要領もいい。


もう立派な大人なので、コーンウォール夫人やイライザ嬢が気をもむ必要はない筈なのだが、夜会に出るたびに、リオの時とは違ったざわめきが起きた。


シエナのより濃い色の髪と目、短く刈り込まれた頬髯、すらりとした体躯。それから、甘いマスク。本人無自覚。深くていい声だ。笑い声は無邪気にさえ聞こえる。


そして女性より酒である。


許せない。


許せないけど、許しちゃう。


いっそ飲みつぶれちゃえ。お持ち帰りさせていただきますわ。


そんな中、シエナはハーマン侯爵家から解放されて伯爵家へ連行された。

パトリックは、バラの館の話を聞いた途端にシエナを救出したのである。案の定、妹は真っ赤になっていた。


「あの館の中で何をしていたのかね? リオ」


疑惑の目。


まっとうなパトリックの言葉にリオは弁解した。


「シエナ嬢に、いかに僕が本気か、説明していました」


リオは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

父親の方のリーズ伯爵と比べて、パトリックはまともだった。


「婚約者とはいえ、二人きりというのはよろしくないな。伯爵邸の改修は一応終わった。まだまだ足りないところはあるが、シエナの部屋くらいは確保できたので、今晩からこちらの屋敷に引き取りたい。先ほど、コーンウォール卿夫人とハーマン侯爵にはご挨拶に伺った」


リオはサーと顔色を変えた。ラッフルズのやつ、屋敷の改築のためにカネを惜しまなかったんだな。リリアスの為に。でなければそんなに早く工事が終わるはずがない。


「婚約披露の会はできるだけ早く当家で行いたい。私はシエナとよく相談して、ハーマン家と歩調を合わせて、リオ殿との結婚式の段取りを決めていきたい」


「あの、リーズ家へ訪問させていただくことは……」


パトリックは微笑んだ。口の周りにしわが寄って、何とも不思議な男前感が出る。


「もちろん歓迎だ。大切な婚約者殿だ」



しかし、シエナが伯爵家へ戻ったことが、後々の大事件を起こしてしまったのである。


兄と二人で新・伯爵家へ入ったシエナは驚いた。


「ずいぶんお金がかかっていますのね、お兄様」


見る間にパトリックはしょげた。


「そうなんだよ。リリアスの嫁ぎ先のラッフルズのおかげなんだよ。だけどね……」


いくらかかったのか、教えてもらえないし、払うと言っても、全然聞いてもらえないんだと兄は言った。


シエナにも、いくら位かかったのか見当がつかなかった。


玄関や廊下は、まだ職人が出入りしているが客間、台所、食堂、シエナとパトリックの寝室は内装や家具の設置は済んでいた。掃除婦が命がけみたいな勢いで、残ったおがくずやほこりの類をきれいにしていた。


「とにかく、まずはお茶会でもやりなさいって言われているんだ」


「誰からですか?」


「ラッフルズ家から」


ウーム。それは仕方ない。発注主からの命令だ。


「どんな規模のお茶会ですの?」


「まあ、最初はお友達からかなあ?」


そうなると使用人がいない。シエナは困ったが、すでにコーンウォール夫人の手配で、新しい執事がやってきていた。


「ベイリー!」


「コーンウォール夫人から、しばらくこちらのお屋敷で、シエナ様にお仕えするよう承ってまいりました。そして……」


職人の荷馬車に横付けされた大型馬車からは、大勢の女達が吐き出されてきた。


「ダイアナ! ヴィクトリア! アレクサンドラ! マーゴ!」


シエナは叫んだ。


彼女の大事な使用人たちだ。


「シエナ様!」


彼女たちも叫んだ。


「また、お仕え出来て嬉しゅうございます!」


シエナはよい女主人だった。

前の伯爵や伯爵夫人とは違う。


指示ははっきりしていたし、気分で変わったり、前言ったことを忘れて、使用人のせいにしたりしない。


別れていた期間は、わずかだったが、彼女たちは喜んでいた。


「落ち着くところへ落ち着きました。伯爵家ご当主のお兄様のもとから正式に嫁がれましたら、本当に申し分のないご婚儀になります」


ダイアナはとても満足そうだった。


ベイリーもニッコリ笑った。


「私も、コーンウォール卿夫人から、リーズ伯爵家をしっかり盛り立てていくよう厳命されております。リーズ伯爵様にご満足いただけますよう、誠心誠意努めさせていただきます」


「差し当たっては、必要な身の回りの品々を整理いたします」


何度目の引越しだろう。


この家からブライトン公爵家へ身一つで移り、ハーマン家へ行き、さらにはハーマン家のバラの館で過ごしてこの家に帰ってきた。


怒涛の日々だった。


そして、リオ。


リオは弟じゃなかった。

今のシエナのリオを見る目は全然違う。リオ、とっても怖い。そのくせ、目が離せないのだ。


「お式はできるだけ早く、それでも一年後を予定しております」


ベイリーが言った。


「差し当たっては、ブライトン公爵令嬢をはじめとしたお友達をお招きして、お茶会をなさってはいかがでしょうか。伯爵家令嬢としてのデビューですね」






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