8.
「スウさま申し訳ありませんー!」
「セバスさんもう顔を上げてくださいって」
「いえいえ、大事な大事な主の命の恩人の御方に怪我をさせてしまうなど、あってはならないのですー!」
「たんこぶ出来ただけですよ?」
濡れたハンカチを後頭部に当てながら、スウは床に土下座したままのセバスチョンに困ってしまっていた。
あれからてんやわんやの騒ぎの後、スウが気絶から目覚めたら安心して滂沱の涙を流したセバスチョンはすぐさま土下座の態勢に入ってしまい今に至る訳である。
スウは困ってシゼを見上げた。
それを受けてシゼはセバスチョンの傍に片膝を付く。
「セバス。スウを困らせては元も無いぞ。それくらいにしとけ」
「ハッ。仰せの通りに!」
スチャッとセバスチョンが秒の速さで起き上がり、直立不動の姿勢になる。
どうやらスウにもいい加減解ってきたのだが、セバスチョンの方がシゼやカイよりも立場が下の様だ。
シゼはいったい何者なのか。
カイも頭をぺこぺこ下げるセバスチョンを見ても当たり前のようにしている。
スウはムズムズする気持ちを抑えていたが、何だか聞いてはいけない雰囲気を感じてもいた。
「そろそろ帰ろうよ~」
カイが椅子に座り足をぶらぶらさせながら声を上げた。
外の天気は、雪も降っておらず陽がわずかに差している。
確かに帰るなら今がいい天気だろう。
「カイくんの言う通り、帰るなら今が良いと思います」
「表に馬を用意してあります。スウさま大変お世話になりました!」
セバスチョンとカイが外に出ていく。
カイが手を振ってくれたのでスウも振り返す。
家の中にはシゼが何か言いたそうに残っていた。
「シゼ?」
「スウ……。必ずお礼をするから。絶対にまた会おう。約束だ」
「シゼーノさまあっ!」
セバスチョンの呼ぶ声がする。
シゼは最後にスウの手を握ると、振り返らず馬に乗って行ってしまった。
スウは三人の姿が見えなくなるまで見送った。
扉を閉めると、途端静けさが家の中に漂う。
さっきまでにぎやかだったのが嘘みたいだ。
スウのは思わず胸を押さえた。
何だか、隙間風が吹いた気がしたのだ。
それも、心に。
そんなスウをふわりとあたたかい腕が包み込んだ。
「レビ?」
腕の主はレビだった。
「スウ。寂しい?」
「……うん、何だか胸がすーすーするの」
「そう。いい? 忘れないでスウ。寂しくて辛くとも希望だけは捨てては駄目」
「レビ、訳が分からないよ?」
「いいから。忘れちゃ駄目よ」
何かを堪えるような、レビの言葉の重みにスウはとりあえず頷いたのだった。
この時の事を、スウは何度も反芻することになるのは、まだ先の事。
未来の事だった。
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