6.
「と、ところで」
シゼが話題を変えようとスウとは微妙に視線を外しながら尋ねた。
「スウはこんな奥深い森の小屋で一人で暮らしているのか? それとも他に誰か」
そこでスウの表情が陰ったのでシゼが言葉を止めた。
「すまない」
「ううん、いいの。ニーラはわたしに泣いて暮らして欲しいだなんて思ってないだろうから」
「そう、だったのか……」
シゼはこの少女をひどく見くびっていた様だと認識した。
しかし、母親の名を親しく呼ぶのか、姉の名かそれとも親戚なのか推測は出来たがスウの言葉の雰囲気だと違う何かを感じた。
まるで……。
「シゼ?」
「何でもない。考え事だ」
二人の間に沈黙が落ちた。
暖炉の火が弱ってきたのを見て、スウが薪を新たに加えようと椅子を立った。
「私がやろう」
「シゼは休んでていいのに」
スウよりも早く薪を掴んで火に放ると、シゼはまんざらでもなさそうな顔をして火を見つめていた。
その隣に、スウは近寄った。
「スウは淋しがり屋なんだな」
「な⁉」
口をパクパクさせているスウにシゼは笑って話し出す。
「飼っていた、うさぎにそっくりなんだ。知っていたか、うさぎは淋しいと感じると儚くなってしまうらしい。まあ、噂だけれどな」
「うん、絶対それそうだよ! フンッ」
スウの態度にシゼは笑いを堪えた。
頬を膨らませてこちらを見上げるスウは幼い子供の様で、
「可愛いな」
「え、シゼ何か言った?」
小さく呟いた言葉は無事聞こえなかったみたいだ。
また、二人に沈黙が落ちる。
シゼは久しぶりに心がくつろいでいるのを感じた。
自分の居る場所と自分の立場がどれだけ窮屈なことか。
此処では、スウという少女の前では、ただの一人の男として居られる。
まるで夢の様な時間を過ごせている。
だが。
「夢は長くは続かない……」
「シゼ?」
スウは首を傾げた。
さっきまで穏やかだったシゼの表情がとたんに曇ったのだ。
とくん、とくん。
スウの胸が静かだが明らかに違うリズムを刻んでいた。
シゼのこと、もっと知りたい。
手を伸ばしたスウは、シゼを抱きしめようとして……。
それに気づいたシゼが驚いた顔をして……。
二人の影が一つになろうとして……。
「っくしょん!」
離れた。
間の悪さの主はカイがしたくしゃみ。
ベッドの方を見ると、カイが目を覚ました様だ。
「うーん、お兄さま?」
「カイ! 調子はどうだ?」
シゼの問いかけに、カイが数度瞬きをして頷く。
「うん。寒くないよ。あったかーい、このお布団」
「うん、さっきクシャミしたけれどカイくん熱もないみたい」
額と額をまた合わせてスウも笑顔で頷く。
その様子に何故かモヤッとしたシゼだが、すぐに頭を切り替えた。
「カイお腹空ているだろう。スウが、あ、このお姉さんが美味しい料理を作ってくれたんだ」
「ほんと! 僕、お腹空いてるんだ!」
「じゃあ、食べましょうか」
カイもまた、スウの料理をよく食べてくれた。
三人の間にはあたたかな空気が流れていた。
カイは食べるとまたベッドに戻って寝てしまい、夜も更けてきたためにスウは今夜は此処に泊まるようにシゼに提案した。
「すまない。本当に。スウには必ずお礼をする。約束だ」
シゼの言葉にスウは頷くだけにとどめておいた。
お皿を洗い終えて、振り返るとシゼがベッドの脇にもたれて舟を漕いでいる。
毛布を肩にかけてあげてスウは自分も布団を床に敷いて、休むことにしたのだった。
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