5.
コンコン。
スウが料理を作り終えたと同時に、扉を叩く音がした。
「さあ、来たわよ。じゃ、スウあとは頑張ってね!」
ポポン!
「レビ!?」
言うがいなや音を立てて消えたレビにスウは慌てた。
その間にも扉を叩く音は止まない。
スウは大きく息を吸って吐いた。
扉を開ける。
「すいません! 助けてください、弟が!」
雪が風に乗って強く舞い込んできた。
その雪を背景にスウより年上らしき男性が男の子を抱えて立っていた。
よほど寒かったのか二人ともガタガタと震えている。
「ど、どうぞ入ってください!」
ワタワタとスウは二人を家の中に招き入れた。
「ああ、あったかい……」
男性が暖炉の火を見てホッとしたように息を吐いた。
そしてハッとして腕の中の男の子を見る。
男の子はまだ震えていた。
スウは急いで毛布を持ってきて言った。
「くるんでやって!」
毛布を男性に渡すと、スウは暖炉の火にさらに薪を加えて部屋の温度を上げる。
やっと事の無い作業なのに、スウの体は自然と動いて次に何をすればいいのかを理解していた。
まずは男の子の濡れた服を脱がして乾いた服を与えなきゃいけない。
そこでスウは慌てた。
男の子にちょうど良い服が無いのだと気付いたのだ。
だが。
「ちょうど良い服、ある……」
引き出しには男物の服がちゃんとあるではないか。
きっとレビが用意してくれたのだろうとスウは思った。
とにかく、とスウは男性に告げる。
「濡れた服脱がして、この服を着せてあげてください。貴方の分も有りますから」
「これは、助かります」
男性が着替えている間、スウは男の子の服を脱がしてあげ乾いた服を着せる。
毛布でさらにくるみベッドに寝かせると、男の子の頬に赤みがさしてきた。
着替えた男性も男の子の様子に胸を撫で下ろしていた。
そしてスウに向き直る。
「ありがとう。えっと、貴女の名前は……」
「スウよ」
「スウ。本当に今回は助かった。感謝する。私は」
その時、男性のお腹から盛大に空腹を告げる音が鳴った。
それは見事に主張していた。
「は、すまない」
男性の顔が真っ赤になっていた。
その様子にスウは思わず笑ってしまった。
「ちょうど料理作ったの。食べない?」
「いや、さすがにここまでしてもらってそれは」
また男性のお腹が鳴った。
「ほら。食べないと料理もったいないし」
「では、すまないがいただくとしよう」
男性はスウの作った肉料理を一口食べる。
「お、美味しい!」
それから男性はスウの作った全ての料理を黙々と平らげた。
食べ終えて満足げな男性を見て、スウは頑張って良かったと心から思った。
「ありがとう。スウの料理とても美味しかった。感謝する」
「あの子の分も有るから。あとで目を覚ましたらあげてね」
ベッドですやすや眠る男の子を指さしてスウは言う。
「本当に、何から何まで。感謝する」
頭を下げて男性は礼を言った。
「私はシゼー……、ごほんごほん! シゼだ。弟の名は……カイだ」
何故だか途中咳払いしたり間が空いたりしながらと男性は名乗る。
話を聞くと、お付きの人と森に雪遊びに来たのだがはぐれて迷子になった挙げ句すごい吹雪と雪で二人して途方に暮れてた所、この家を見つけたという。
「シゼは体調大丈夫?」
「私は体を鍛えているから大丈夫だ」
きっぱりとシゼが言うが、スウの心配は収まらない。
「スウ!?」
シゼがスウの行動に驚いて声をあげた。
スウは自分の額をシゼの額にぴったりくっつけたのだ。
「うーん、熱は無いみたいだけど……」
「す、スウ、もう大丈夫だから!」
ぐいっとスウの肩を真っ赤になり慌てて押し戻すシゼ。
「えー、でも顔赤いよ?」
「本当に、大丈夫だから」
シゼの反応はしごく当然のことだった。
自覚が無いのだろうが、スウはかなり美人に入る方の顔立ちだ。
その綺麗な顔と瞳が間近に迫ったので、シゼの心臓はばくばくしていた。
此処にレビが居たのなら「初心な奴」とかツッコミをいれてたはずだ。
スウにとっては普通の行動を取ったので何とも思ってもいない。
明後日の方向を向くシゼにスウは首を傾げたのだった。
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