第99ターン 葛藤、絶望格ゲーマーの決意
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
もはや自分のビジネスではないと言わんばかりに会場を去ろうとする絶望王子、蛭田恭介。これに日出ずる国の熱血漢、純がストップをかけた。
「オイッ、ニヒル!向き合えよ格ゲーに。自分の為に闘えよ!」
背を向けた蛭田の歩みが止まる。皆が固唾を飲んでその去就を見守る。
動かない、蛭田。いや、動けないのだろう。ファイト、オア、ノットファイト。花崎が得意のイングリッシュで蛭田の葛藤を口ずさむ。
おい、キミ。この間、暫く黙っていたマスター夢原が蛭田に声をかけた。
「キミのゲイルが見たい。待ちゲイル以外の、キミらしいファイトが見たい。一人のゲイル遣いとして。」
なあ、格ゲーってそういうもんだろ。良くも悪くもさ。業界のレジェンドがそう諭すと、立ち止まっていた蛭田が俄に振り返り、ゲーミングチェアに向かって歩き出した。
お、俺は負けたくない。俺のゲイルで勝ちたい。ここで止めたら二度と格ゲーと正面から向き合えない。格ゲーだけは逃げたくない。
蒼く静かな闘志を燃やした蛭田はドッカとチェアに深く座り込み、戦闘継続の意志を満天下に示す。小生ハ逃げヌ。
レフェリーのピカピカ先生が未だやれるかと蛭田を覗き込むと、これにファイティングポーズで答える若きゲイル遣い。
イェイ☆ヤッタね!クー子が弾ける。失言からこのバトルを破綻させかけた蘭子はバツ悪そうにしていたが、フンッと鼻を鳴らしながらもホッとした様子だ。
蛭田に一瞥をくれ、ニカッと笑うチーム夢原のエース、日乃本純。彼もまた葛藤を抱えたままでの闘いとなる。俺っちは誰なんだ、、、
レディ〜ファイ!
花崎家の家督を賭けた闘い。若者達の運命を翻弄しながら、その最終決戦第三ラウンドの火蓋がついに切って落とされた!
・・・
オペラ劇場を模したサンシャイン学院の講堂。熱狂の坩堝と化した、この格ゲー会場のバルコニーに三つの人影がある。怪しい。
「何やら面白いことになってきましたねぇ」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。