第97ターン 不穏試合?蛭田の敵前逃亡
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
不穏試合とでも言うべきか、否。第二ラウンドで一方的に戦意を失い、試合を放棄したかに見えるゲイルの遣い手、蛭田恭介。
無欠のカウンター殺法「待ちゲイル」を捨てたのか、防御も攻撃もしないある種のノーガード、両手ブラリでの敗北だった。
最終ラウンドを前にして、コントローラーを置き、頭を抱え込んだ蛭田。彼は葛藤と混乱の中にある。
そうさ、たかがゲーム。た・か・が、ゲームだ。小生、何を熱くなってたのか。ゲームの勝ち負けで家督を決める?笑止。そんな茶番に付き合った自分の人生こそが羞恥。
小生、何を求めてこの会場に来た?新井の誘いに乗った?馬鹿げている。世俗を断ち、文學と格ゲーの隠遁生活に入ると決めたのに、ノコノコと。
小生の「待ちゲイル」は、とどの詰まりやさぐれた心の象徴。しかも既に破られたる技だった。今、通用しているのは、ただ、、、もう辞めだ、我去るべし。
俄に立ち上がった蛭田はゲーミングチェアを離れ、そのまま出口に向かって歩きだ出した。これには蘭子や親衛隊員達は面を食らう。慌てて蛭田を止めようとした時。
待てよ。蛭田を制する声がした。その主は日乃本純。蛭田を真っ直ぐに見つめる純だが、彼もまた整理出来ない感情を持て余していた。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。