第94ターン レジェンド夢原の真実
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
露骨なカウンター殺法「待ちゲイル」の発案者は夢原だ、蛭田の暴露に会場は水を打ったように静まりかえる。
マスター夢、嘘ですよね。イッツ・ライ、花崎が小さく問いかける。ねぇ嘘ダロ?夢さん。クー子も後を追う。夢原は弟子達と目を合わせることが出来ない。
口元を歪め嘲笑を浮かべながら蛭田が夢原に迫る。
「小生がネットの大海原から見つけたる貴殿の黒歴史。レジェンド夢原、否、夢原青年のアーケード時代のプレイをご親切にもアップしている奇特な御仁もいるようで。」
ウグッ、まさかそのような動画が上がっていようとは。あの頃はただ勝てればよかった、いや正しくは相手を負かすことだけが楽しみだった。
夢原は振り返る。弟子達の不信感を拭う為には語らざるを得ない。
ぎゃあああ、負かしたキャラの断末魔の叫び。屈辱に震える相手プレイヤーの呻きが聞こえてくるではないか。あの頃の自分はこれが何よりもの快楽だった。最高の優越感だった。
そんなやさぐれた気分でゲーセンを荒らし回っていたはぐれ狼の頃、俺はある人物と出会った。その人は窘めるように「待ちゲイル」をいとも簡単に破り、俺の目を覚ましてくれた。
夢原は意を決したように、何故か純に向き直り話を続けた。
「、、、俺を救ってくれた伝説の格ゲーマーがいたんだ!俺はその人を師として格ゲーを、人生を学んだんだ!」
「それは純!お前の」
「ユメハラ!!、、、さん、今は試合に集中しませんか」
突如、純の姉、音々が絶叫し夢原の告白を遮った。何だよ姉ちゃん!オイッ夢さん、何を言いたかっんだ!?純が訝しむ。
え、まさか、、俺っちの、、、
夢原が噤んだ最後の言葉。それは言わずもがな何であったのかは、花崎にもクー子にも容易に想像がついた。
「日之本クンは、、純のDNAは、、、」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。