第93ターン 秘技待ちゲイル、その生みの親
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
絶望王子、蛭田が操るゲイルのカウンター殺法、「待ちゲイル」の前に為す術のない純。
見事な対空技を見せつけられては、地上戦に活路を見出すしかない。ままよと、純は前ステップでゲイルとの距離を縮めたが異常に長いリーチのしゃがみ大キックの餌食となる。
リョウの残り体力はおよそ一ミリ程で如何にして攻めれば良い分からなくなった純・リョウは茫然自失と立ちつくす。そしてそのままタイムアップ。
最終戦の一本目は蛭田・ゲイルが無傷のままで先勝する。沸き立つ蘭子陣営、会場にはやんやの歓声が鳴り響く。
「す、すまねえオタク族、、相手のガードが硬すぎて、、」
ドンマイ、ノープロブレムと純を励ます花崎。勝負はこれからとクー子もエールを送るが純は完全に自信を失っている。絶望しているのだ。
それを察知したクー子がパフォーマンスで蛭田にクレームを付ける。
「そこのヘンチクリン、セコい闘い方すんじゃないよ!それでもオヌシは格ゲーマー?堂々と闘いなさいよ!」
その過度にディフェンシブな闘い方は格ゲーの精神に悖ると鋭く指弾する下町の理論派クー子。すると蛭田が、
「ヘンチクリンとはご挨拶に御座候。そもそもこの闘い方は、、」
蛭田はフッと笑って見せ、ズバリ指をさして叫んでみせた。
「格ゲー・レジェンド夢原省吾、あなたが編み出した不敗の秘技ですよね!」
俯き黙り込む夢原。嘘だろと、驚きの表情を隠せない純ら三人の弟子。蛭田の暴露はチーム夢原に深刻な亀裂を生じせしめた。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。