第92ターン 無双!禁断の待ちゲイル
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
待ちゲイル。その禍々しい響きに業界の生き証人、マスター夢原は動揺を隠すことができない。
そんな夢原に横目で一瞥を送り、ケケッ、口を歪めて嘲笑するニヒリスト蛭田。ゲイルをしゃがませて一切動こうとしない。それならばと純が攻撃を仕掛ける。
「動かねぇなら、コイツをお見舞いするゼ!」
↓↘→ リョウ定番の飛び道具、気流拳を打ち込むと、これに蛭田・ゲイルが同じく飛び道具で対抗する。
「ソォウル・ビィーム!」
画面中央で二つの波動がぶつかり合い、互いを相殺する。ムキになって同じ技を連発してしまう初心者の悪癖か、純がこれでもかと気流拳を連発してしまう。
「落ち着け、日乃本くん!ドント、ドントクイック!」
セコンドサイドから花崎が堪らずアドバイスを送るが、マズイことに純の手元が狂い気流拳を出し損ねる。そこにゲイルのソウルビームが飛んでくる。
バシッ!被弾したリョウの体力ゲージが一割程減ってしまう。クソっ、これならどうだ!と純が接近戦を狙い斜めジャンプで距離を縮めた瞬間だった。
安易に飛び込むな!夢原が叫んだが時すでに遅し。
「ムゥーン・サルトキッィーク!!」
しゃがんでいたゲイルがその姿勢からバック宙の要領で↓↑大キックを繰り出す!
これをモロに食らったリョウの体力ゲージが半分程に減ってしまう。息を飲む純の姉、音々。目を覆うクー子と花崎。
打つ手がなくなり茫然自失となる純。動きを完全に読まれてしまった時、格ゲーマーの精神的ダメージは図り知れない。
「ダ、ダメだ、、何をしていいのか、わからねえ、、」
また画面端で動かなくなったゲイル。そして蛭田は何か言いたげに夢原と睨み合う。
「フフッ、やりますねぇ絶望クン。」
ほくそ笑む花崎蘭子と蘭子親衛隊の新井達。一本目の残り時間はあと30秒程となり、タイムアップが近づいてきた。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。