第91ターン 秘技!待ちゲイルの罠
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
ついに花崎の家督を賭けた格ゲー対決は最終戦へと縺れ込んだ。兄の誇の味方には格ゲーレジェンド梅原省吾とその弟子、純とクー子。
一方、花崎の妹、蘭子はオーディションで選んだ格ゲー集団デスメタルを手先とし襲いかかる。
チーム夢原はエースの日乃本純がトリを務める。デスメタルはその首魁、蛭田恭介がスタンバイする。
レフェリーのピカピカ先生のベビーフェイスも幾分固くなり、弥が上にもラストマッチの緊張感が昂まっていく。
が、嵐の前の静けさか。会場は静寂に包まれ、コントローラーの操作に合わせてビープ音だけが鳴っている。
純が空手家リョウを選ぶと蛭田はタンクトップに奇抜な髪型の軍人を選んだ。ゲイルだ。
その瞬間、読み合いの達人、夢原に一抹の不安が過る。まさか、まさかな。独りごちる夢原。悪い予感が当たらねば良いが。。
瞑目し、静かに何かを囁く絶望王子、蛭田。暗く醒めた横顔は凄みに溢れ誰をも拒む孤高の決意を湛えている。
お喋りな蘭子でさえ気圧されて、ただ口を尖らせているばかりだ。
「それでは第三戦を開始します。レディ〜、、、ファイ!」
ピカピカ先生の叫びが木霊すると、ついに決戦のゴングがなった。
行け、純!ファイト、日乃本クン!クー子と花崎が声を上げる。純、落ち着いて行け!マスター夢原から指示が飛ぶ。
純が操る空手家リョウは手慣れたバックステップで、蛭田のゲイルから距離を左手にとる。
すると合わせ鏡のように蛭田・ゲイルもバックステップで右側へと移動する。
そしてあろうことか、スッとしゃがむと一切動かなくなった!
唖然としてキー操作を忘れる純、驚きで声を出せないクー子と花崎。マズイ!これまで見せたことのない狼狽の色が顔じゅうに広がるレジェンド夢原。
「クッ、、、待ちゲイルだ!!」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。