第89ターン 勝負の分かれ道、それは小パンチ
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
飛び道具の飛竜拳で鳴木・ローグを追い詰める花崎・ゲン。しかしローグは垂直ジャンプで被弾をかわして時間を稼ぐ。決して安易に飛び込んで来なくなった。
残り三十秒、体力はローグがゲンを上回り、このままタイムアップならローグが二本目を奪取して1勝1負のイーブンとなってしまう。
「オイッ、オタク族!ダメージ取らないと負けちまうぞ!」
純に言われるまでもなく、花崎もよく分かっている。今こそ、詰め切らなくてはならない。しかし相手がカウンターを狙っていることも明白だ。
「アララ、弱虫小虫のお兄様、遠くから小石ばかり投げてても勝てませんワヨ、ア〜ハッハッハ!」
花崎の妹、蘭子がヤジを飛ばして兄に圧をかける。確かにそうだ、前に進まない限り現状は打開できない。
「ヲタ、勇気を持て!一歩踏み出すんだ!」
マスター夢原が花崎にGOを指示する。ここまでくれば技術の問題ではない。心のモンダイだ。
花崎クン、勇気を出して。
純の姉、音々が心の中で祈る。その声が花崎に届いたか。乾坤一擲、花崎は方向キーを↓↙←の順で弾き、間をおかずに中キックボタンを撃つ。
「一人でCPU戦に耽っているユーとは違う!」
花崎がそう叫ぶと同時にゲンが烈風脚を繰り出し、ローグとの距離をグッと縮める。
「クックッ、引っ掛かった!」
カウンター狙いの鳴木は待ってましたとばかりに例の中パンチを突き刺す。危ない!
が、花崎もこれを読み切っていた。ゲンは一度ガードして、素早く小パンチを上下に打ちわけローグの体勢を崩す。ローグは中パンチを差し込めない!そして、
「ミーには切磋琢磨する仲間がいる、日ノ本一の熱血漢と下町の太陽さ!」
そう吠えると、ゲン伝家の宝刀をローグにお見舞いした。→ ↙ ↗
「飛竜〜拳!」
ジャンピング・アッパー・カットが仮面のマタドールの顎を砕き、その自己愛過多な顔つきを露わにさせた。ローグの体力ゲージはゼロを示し、勝負は決した。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。