第88ターン 格ゲー必須科目、対空技講座
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
二本目の流れは鳴木・ローグが手繰り寄せた。上からの攻撃、ジャンピング・バルサ・スマッシュへの対応に苦慮する花崎・ゲン。
実は対空技の練習は強化合宿で随分と練習したが、速い攻撃を迎撃するにはタイミングが肝要だ。
・・・
「いいか、純、ヲタ。プロの対空技は相手の動きを見てからコマンドを入れるが、お前達には未だ無理だ。」
夢原が言うにはプロゲーマーの動体視力はNFLのアイスホッケー選手並らしく、他のアスリートを圧する。
「若いお前らなら目を磨く特訓すれば、いずれあの小さなパック*を目で追うことが出来るだろう。」
[註]アイスホッケーの球に当たる小型の円盤
しかし次の試合まで間が無い。今回は別の方法を教える。そう夢原は言うと、純と花崎にコントローラーを握るよう命じた。
「いいか、リズムを読むんだ。相手が調子良く攻めて来る時には良くも悪くもリズムが生まれる。」
そこを攻めろ、技を差し込め。夢原は弟子達を攻め手と守り手に分け、実戦形式のトレーニングを反復させた。
それはロックバンドのリズムセッションよろしく相手の次の動きを見込みながら技を繰り出す訓練。小一時間程度で純と花崎は見る見るうちに対空技のタイミングを身に身につけて行った。
・・・
「アイ・リメンバー、合宿で特訓したはずだ。」
冷静さを取り戻した花崎はローグの素早い上からの攻撃に反撃の狼煙を上げる。キェ〜!その奇声がローグ、攻撃の合図だ。
「今だッ飛竜〜拳!」
見事に対空技でローグのジャンピング・バルサ・スマッシュを迎撃した花崎・ゲン。ローグの体力ゲージがグッと減る。チーム夢原が一気に沸き立つ。
くうゥ、やって・・くれますね、と唇を噛み再び防御体制に入った鳴木・ローグ。
お次はガードを固めた相手をどう崩していくか。画面中央に設えられたタイマーは刻一刻と過ぎていく。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。