第87ターン 苦戦、ジャンピング・バルサ・スマッシュ!
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
鮮やかに一本目を先取した花崎。医療法人花崎会後継の座を守り切れるか。
「フンッ、首の皮一枚残しましたワネ、お兄様。まあ、風前の灯火には違いありませんが。ア〜ハッハッハ!」
執拗に口撃を続ける妹の蘭子。常軌を逸した攻撃性、その源泉は何処にあるのか。デスメタルのフロントマン、蛭田は味方の首班の人格に首を傾げざるを得ない。
程無くレフェリーのピカピカ先生が二本目を告げる、レディ・ファイ!
一本目の余韻は未だ続いている、花崎の流れだ。飛び道具の気流拳で牽制する花崎・ゲン。これを防御する鳴木・ローグ。距離を詰めての中パンチが通用しなくなった今、どのようなに出てくるのか。
と、気流拳をかわしたローグが突然飛翔し、上空からの攻撃をゲンに仕掛けてくる。
「ジャンピング・バルサ・スマッシュ!」
初めてくらう攻撃に焦りを隠せない花崎。心理戦の形勢が一気に逆転する。
「ホワット!速くて隙がナッシング!!」
ジャンプしてきた相手を迎撃する術はそれなり学んで来た花崎だが、真上からの攻撃には未だ慣れていない。そして何より速い。
キェ〜!と嬌声を上げてバルサ・スマッシュを連発するローグ。変な声だすなヨ!野次る純に呼応してクエッ!クエッ!と奇声で囃し立てるクー子。おかしな応援団だ。
花崎はガード操作にも苦慮している様子。ゲンにダメージが蓄積していく。
「ここはヲタにとっての勝負どころだな。」
タイクウ。格ゲーの生き字引、夢原省吾はそう呟いた。その不思議なスラングにクー子が目敏く反応する。
「夢サン、タイクウって何ナノダ?」
「対空技、上からの攻撃に対する反撃のことヨ。」
夢原に代わって純の姉、音々が答えた。これをマスター出来るか否かで勝率ばグッと変わる。初級者から中級者への登竜門だと、夢原は苦戦する弟子をジッと見つめる。
「オイッ、オタク族、合宿を思いだせ。夢サンとの特訓を思い出すんだ!」
純の送ったエールに花崎は我に帰る。イエス、マスターと訓練した技術を本番で駆使すれば道は開ける。格ゲーは楽譜の無い即興演奏だ!
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




