第86ターン 格ゲーはリズムだ、セッションだ
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
絶妙な距離感で攻撃を継続する鳴木・ローグは得意げだ。その中パンチをガードしながら「リズム」を探る花崎・ゲン。
「タン、タン、タン、タン、とまるで単調な中パンのバスドラム。これにスネアを入れて音楽にする!」
と、花崎・ゲンは鳴木・ローグの中パンチ連打の隙間を穿ち、攻撃を仕掛ける。
「気流拳!」
パシッ!ショートレンジの飛び道具がゲンの掌から放たれると、それはローグを横っ面をひっぱたいた。やったぜベイビー!純が歓声を上げる。
クソッ!花崎の反撃に鳴木が呻く。が、攻略されたにも関わらずお得意の攻撃パターンに執着する鳴木。切り替えの遅さは格ゲー初心者共通の課題だ。
「タン、タン、パシッ!タン、タン、パシッ!」
鳴木・花崎の攻守にクー子がイカしたビートをボイスパーカッションよろしく重ねてみせる。見る見るとローグの体力ゲージがゼロに近づく。
「あ、新井!同じ技ばっかりでは負けてしまいますわぁ!」
焦った蘭子が親衛隊長の頭をメガホンでポコポコと叩く。ちよっと別のことさせなさいよ!
一度崩した自分のリズムを鳴木は中々取り戻せない。花崎のリズムにお付き合いしている格好だ。
ヲタ、相手はCPU戦の専門家だったようだな。セコンドの夢原が勝利を確信した弟子にウィンクを送る。
「ええ、マスター。まるで昔の自分を見てるようですよ、デジャヴュ!」
と花崎がスカしたことを言って、キザの本領を発揮する。喰らえ、気流拳〜!
緒戦は相手のリズムにハマったが後半戦は持ち直した花崎・ゲンが一本目を先取した。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。