第83ターン 格ゲーと大人の恋
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
もう一歩も退くことは出来ない、もう一敗も許されない。そんな究極の状況でネイチャーボーイ・花崎誇がコントローラーを握る。
一方、チーム蘭子があと一勝すれば花崎の家督は蘭子のものとなる。そんな事情を知ってか知らずか、会場のボルテージは更に熱気を増す。
花崎が操るアメリカンな空手家ゲンに相対するのはデスメタル第二の刺客、鳴木聡。この気取ったナルシストが使うキャラクターは闘牛士を思わせる仮面のファイター、ローグだ。
「ヲタ、落ち着いて行け。相手はトリッキーだ、惑わされるな。」
セコンド夢原の基本戦略にアイノウと短く花崎。集中している証拠だ。
プロゲーマーの世界なら通常は全キャラへの対策を行うが、花崎や純は未だそのレベルには到底ない。自分の技を磨くのに精一杯だ。
そんな中で変則的な動きが持ち味のローグとの対戦となったのは、アンラッキーと言わざるを得ない。しかし、磨きをかけた攻守の技を巧みに組み合わせれば、道も開ける。
そう、この闘いは攻守の有機的な組み合わせが勝利の鍵になるだろう、、、
「二番手のロン毛クン、見事勝って見せたらアタクシ、おデートしてあげてもよくってよ。ア〜ハッハッハ!」
蘭子がいい調子で鳴木に声をかけると、鳴木は薄い唇を歪めてフフッと笑い、前髪をかきあげる。
「ソレって、告白、かな?自分に正直になれよ。」
流石は学内一のナルシスト。親衛隊を持つお嬢の蘭子にも上から目線でカマをかける。
「オイッ、クー子、アイツら何言ってンだ?」
そのやり取りを心の純粋培養、純が訝しんでいると、物知りのクー子がアレが大人の恋ってヤツだよと、シタリ顔でレクチャーする。不肖の弟子達に夢原は苦笑する。
熱気ムンムンの会場に、思春期の甘く爽やかな風がそよいだ。が、すでに闘いは始まっている。
「気流拳!」
軽口を叩き油断した鳴木・ローグに花崎・ゲンの飛び道具が幸先良くヒットした。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。