第81ターン 人間魚雷、エド主水でごわす
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
チーム夢原の紅一点、下町の太陽ことクー子が放ったチャンリーの飛び道具、掌底波がエド主水に炸裂し、闘いの流れは一気にクー子に傾く。
会場のボルテージも加速し、敵ながら天晴、そんな声も聞こえだす。が、しかしクー子は掌底波を連発出来ない。タメ技の独特の間合いを未だ掴んていないのだ。
コマンド入力の間合いやコツは掴んてしまうと簡単だが、それまでは苦労するものでこれを習得するまでに格ゲーを諦める者も少なくない。
これは業界全体としての課題なのだが、安易にボタン一つで必殺技が出てもよいものでもなかろう。
とまれ、今は試合に集中だ。
「オイッ、クー子!何やってんだ、さっきの連発しろよッ!」
短気な純がハッパをかける。ネクスト、ネクストと花崎もクー子にエールを送り、セコンド夢原がもう一度、丁寧に指示を送る。
「左ィ←、で、ちょっと待って、、右→、□ボタン!」
出たッ!掌底波、チャンリーの飛び道具が再びエド主水に炸裂。が、今度はエド主水がガードを固めた為、ダメージは僅かだ。
「チョッ、ちよっとお〜新井!こっちがピンチになってるんじゃないのぉ!」
往年のコメディエンヌ斉藤由貴を思わせるワザとらしさで狼狽する花崎蘭子。ナントカしなさいよ!メガホンで頭をポコポコ叩いて側近達を叱責する。
「お、おい、蛭田、なんとかならないのか?」
蘭子親衛隊の新井がチーム蘭子の筆頭、学院の格ゲー集団デスメタルの首領、蛭田に助けてを求める。グズグズしているとコツを掴みつつあるクー子の掌底波が再び襲ってくる。
「、、河内、方向キーを右→、、」
蛭田は河内にチャンリーの飛び道具と似たようなキー操作をガイドし始めた。
「、、左←と□ボタン!」
乾坤一擲、面倒臭がりの河内が蛭田に従いキー操作をしたところ、なんと相撲レスラー、エド主水が人間魚雷の如く頭からチャンリーに飛び込んで行く。
その一撃が掌底波を打ち損ねたクー子のチャンリーに突き刺さり、首の皮一枚繋がっていたチャンリーの体力ゲージをゼロにした!
「見た目は随分と違うのだが、チャンリーとエド主水、似たような造りのキャラだってことだな。クッダラネエ。。」
ニヒリストらしく醒めた調子で嘯く蛭田。会場からはヤンヤの歓声が響きエド主水勝利のコールをかき消してしまう。
花崎家の家督を賭けた闘いは妹の蘭子が率いるデスメタルが先勝した。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。