第77ターン エド主水のちょっとエッチな荒業
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
「やった!スゲェぞ、クー子!」
純が思わず声を上げる!花崎もマーベェラスと後に続く。マスター夢原もグッと小さくガッツポーズ。
チャンリーの秘技「荒熊倒」でエド主水を転倒させたクー子。続け様に同じ技を繰り出す。打撃戦から投げ技中心の組立にシフトした格好だ。
荒熊倒を連発された河内が操る相撲レスラー、エド主水。その体力ゲージは半減し、初めてこの技を喰らったのか、プレイヤーの狼狽がキャラクターの動きから透けて見える。どうも挙動不審なのだ。
「ん〜もぉ〜面倒さいなぁ〜」
怠惰を絵に描いたようなフォルムの河内。まさにカウチポテト族のベテランといった風情だが、ジッサイ格ゲーが好きなのかどうかも分からない。
とにかく面倒だと言っては突っ張りを連発する、だらしないスタイルの河内。どうやら技を競うより、相手を一方的にブッ潰すことにだけ快楽を見出すタイプなのかも知れない。
「ちょっと新井!こっちが苦戦してるの?」
花崎蘭子が苛立ち始める。この闘いには自分の将来がかかっている、さえない兄から花崎の家督を奪うのだ。
眉間に怒りが溜まった蘭子の形相に、親衛隊長の新井は畏まってシドロモドロの弁明をする。
「今プレイしている河内は素質は申し分ないのですが、まだ経験値が、、」
「何よ、素人ってこと?!」
「いや、勿論オーディションを勝ち抜いたプレイヤーです、ハイ!」
口が裂けても参加者が五人だったとは言えない。名門校サンシャイン学院にも格ゲーヲタクはいるだろうと楽観的に人選に着手したが、募集期間の短さがたたって定員割れのオーディションとなっていたのだ。
「オイッ、ランラン!どうしちまったのだ、お前んとこの相撲取りは?」
純の嫌味にチッと舌打ちして、蘭子がディレクターチェアからメガホン片手に河内を叱責する。
「シッカリしなさい、お相撲取り!アンタも何か別の技をやってみなさいよ!」
「ん〜もぉ〜面倒さいなぁ〜」
と言うと、河内は当てずっぽうにL1を押すと、偶然にも最適なタイミングでクー子・チャンリーの投げ技と被った。
打撃系のチャンリーと組技系のエド主水。バトツーは投げ合いとなれば当然、エド主水が有利となる設計。
マズイ!夢原が思わず唸った刹那、なんとエド主水がチャンリーを捕らえるとサバ折りの格好で可憐な拳法美人を抱き、そして締め上げる。
そのアクションがヘンタイ的ですっかり気に入ってしまった様子のカウチポテトの族長、河内。
「ムフ、コイツぁイイ〜」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。