第76ターン チャンリー、エド主水の裏をかく
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
二戦目もクー子の苦闘は続く。蹴りを連発しようにも、相手のエド主水の突っ張りの餌食となる。どうする、クー子。
蝿みたいに飛び回って見苦しいと、吐き捨てるように野次る花崎蘭子。指を指してクー子を挑発する。
「まぁ逃げるのがお達者なこと。さすが債務者の娘、慣れてらっしゃるわ、ア〜ハッハッハ!」
あの野郎、許せねぇ!常軌を逸した純が指でピストルを作り蘭子に向ける。ヒャッヒャッ、暑苦しいゼとその姿をザ・ニヒル、蛭田が嗤う。
が、当のクー子は意外と冷静だ。とにかく負けない戦法を恥をしのんで続けれる、ある種のメンタルの強さがある。その塩対応にリアルファイト向きの資質が垣間見える。
それにしても圧倒的に練習が足りていない気儘なクー子。セコンドの夢原もお手上げ状態だが、対策が無くもない。
現在の攻守を整理すればクー子・チャンリーが蹴りを連発。これをガードしきった河内・エド主水が反撃の突っ張りを連発、ガードが遅れ被弾するチャンリーの体力が削られるという構図。
エド主水の突っ張りをガードしようにも、大技の蹴り連発後には隙、このゲームの特性として次の行動へのタイムラグが生じる。そこに突っ張りが入り込むという案配だ。
しかし、ガードを固める相手に有効な技は勿論、ある。対戦前にチーム夢原が使うコントローラー2のL1ボタンをカスタマイズしておいた。
ぶっつけ本番だが、、やってみるしかない。
「クー子ちゃん、指示どおりに動かすんだ!」
「アイ・アイ・サー!」
「クー子、飛び込め!」
クー子・チャンリーが唯一のコマンド技を放つべくエド主水に接近する。蹴りの連発を見越し、待ってましたとばかりにガードする河内・エド主水。
「L1ボタンだ!」
と、夢原が指示すると、クー子・チャンリーが構えて蹴りを待つ河内・エド主水をまるで喉輪のような格好でブッ倒して見せた!
チョークスラム!会場から驚きの声があがった。エド主水の体力ゲージがグッと減る。
バト2の基礎、ガードする相手には投げ技が有効、このセオリーをクー子は実戦の場で、即興でやって見せた。そこには純や花崎を越えるインプロビゼーションがあった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。