第75ターン 夢原の格ゲー人生論
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
相撲レスラー、エド主水の突っ張り連打に敢なくKOされたクー子のチャンリー。クー子が唯一覚えたキックボタン連打もエド主水をノックアウトするには至らなかった。
「ドンマイ、ドンマイ、クー子!」
純がクー子に声援を送る。レディース、ネキスト、ネキストと、花崎も得意のイングリッシュでクー子を鼓舞する。そう、格ゲーも所謂、切り替えが重要だ。
格ゲー名伯楽、コーチ夢原としても悩ましい。クー子の持ち技は唯一キックボタン連打の百発蹴。堪え性の無いクー子にコマンド技を教える暇が無かった、クー子の熱意を引き出せなかったのだ。
その意味では、やはり格ゲーにおいてキャラ選びは極めて重要と言わざる得ない。クー子は美人拳士チャンリーを自分に似ていると選んだが、イマイチ自己を投影出来ていない。
アイデンティティ、そう言っても過言ではない。格ゲーを愛する者はキャラを愛する。キャラのスキルを己のものとし、そのファイトスタイルに己の信条を重ねる。
その意味では一本気な純は空手家リョウを、洒落た花崎はアメリカンなゲンを選んだ、これはベストの選択だった。キャラのスキルを学ぶ過程で彼らはそのファイトスタイルも受け入れ、人間的にも成長していくだろう、そうあって欲しい。
いずれはクー子にもピッタリのキャラを探さねばとの思いが夢原の頭を過る。が、今は試合に集中だ。
サンシャイン学院の名物教師、レフェリーのピカピカ先生が第2ラウンドを告げた。格ゲーは待ってくれない、レディーファイ!
河内が操る相撲レスラー、エド主水は画面中央にドッカと陣取り、クー子のチャンリーの接近を待つ。乱打戦になれば火力に勝るエド主水が必ず勝利する。
「ゆ、夢サン!どないしたらええの?」
不安のあまり、つい郷の関西弁が出てしまうクー子。ひとまずはヒットアンドアウェーを続けるしかない。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。