第71ターン 花崎家家督争奪戦、開帳
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
サンシャイン学院、それは静岡県下の歴史ある中高一貫校。有名私大の指定校として知られ、特進クラスは北米の高等学校と提携もしている進学校だ。
その名門校が今日に限ってはいつもと違う様子だ。どこか熱い。教員達も生徒から只ならぬ雰囲気を感じとっていた。
放課後、講堂に設えられた巨大モニターとスーパーウファー。今から始まるビデオゲームの対戦に学内の物見高い連衆が十重二十重に対戦ブースを取り囲んでいる。
名門校と格ゲー。なんとも不思議な組み合わせだ。かつて独裁的な社会主義国家でプロレス興行が行われたことがあったが、その時の熱狂を彷彿とさせる。
粛然と管理された人々の心の内にも滾るような闘争心、これが溢れている。きっとそうなのだろう。
にわかに会場が暗転し、あのワレキューレの騎行が流れる。親衛隊が先導する中、ベレー帽にブーツ姿のファッショな花崎蘭子が三人の男達を率いて西の扉から入場する。
男達の筆頭にはあの絶望王子、蛭田恭介。青春の暗さを全身で表現するかのような、上も下も真っ黒のコーディネート。右手には彼のバイブルか「人間失格」が握られている。
一方の東の扉が開いた。ポップでセンチ
、微妙な選曲はTMネットワークのゲットワイルド。サ学院の諸君らには馴染みの無い四人組が現れる。
レジェンド夢原を筆頭にクー子、花崎、そして純が列を組む。電車ごっこの類か、前の人の両肩に両掌をかけて、ユックリ、ユックリと歩いてくる。
「グッ、グレーシー・トレインだ!」
誰かが叫んだが、それはブーイングにかき消されていった。
花崎家の家督を賭けた格ゲーバトルの火花が今、切って落とされたのである。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。