第68ターン 純情クー子の格ゲー修行その弐 懸念
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
「百発蹴!」
蹴りを連発してCPUのキャラをボコるチャン・リー、クー子がバト2で操るキャラクターだ。中国拳法の達人は至って使い易いとクー子はすっかり気を良くしている。
どうだと言わんばかりに、純と花崎を一瞥するクー子。ウシシ、アタイは強いノダ!と言いたくて仕方がない。
しかし格ゲーの最高峰にして、作り込みが深い対戦ゲーム、ロードバトラー2が、ただボタンを連打さえすれば勝てるというほど簡単であろうはずが無い。
対戦とは相手が存在し、初めて成立する。生身の相手との対決はCPU相手の練習とは全く別物だ。マスター夢原はそれを有頂天のクー子に伝えなければならない。
その上、このチャン・リーは曲者でコマンド技の多くが所謂タメ技なのだ。タメ技とは、必殺技の発現まで一定の時間を要する厄介なシロモノ。今これらを彼女に教えてもまずマスターすることは出来ないだろう。
「ようし、今度は相手を撹乱する移動を身に着けよう。」
夢原はそう言うとクー子にジャンプによる移動、着地後の攻撃パターンを指導した。右に左に大きく跳躍し、敵の側に来たら○ボタンを連発。
自信を付けたクー子、練習にも熱を帯びてくる。時にはぶっ潰したる!と不穏な暴言も吐きながらキャラクターの操作を反復する。
シンプル・イズザ・ベスト。確かにそうなんだ。初級者同士の闘いなら、一気呵成に攻め立てれば反撃の暇も与えずに勝ち切ることも出来る。
クー子の対戦相手が如何ほどの実力かは明らかではないが、この作戦で上手くいけば勝つことが出来るかも知れない。夢原は短い訓練期間の中で賭けに出ることにした。
さて、お次は半熟玉子クン達。純と花崎をどう指導するか。彼らはクー子のレベルを卒業している。
先々必ず重要となる相手との「間合い」管理を仕込むか、次なる必殺技を教えるか。次の対戦まで、準備時間は決して長くない。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。故あって格ゲー修行を行っている
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。