第63ターン 俺っち、文学少年と出逢う
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
サンシャイン学院のお姫様、花崎蘭子の命令で親衛隊長の新井が純に学内を案内することになった。クー子が車椅子の純を押す。
新井は案外と親切なやつで、純とクー子を見下したようなイヤミを交えつつも、校内の施設を一通り案内してくれた。
確かに所謂、お坊ちゃんお嬢ちゃん学校で設備はどれも高級、とりわけコンサートホールを思わせる講堂には驚いた。純とクー子が通う地元の公立校とは段違いだ。
学校か。純が呟いた。クー子は聞こえてないフリをした。三人は講堂を出て渡り廊下を進む。
夏休みの登校日にトラックに轢かれ、入院した。リハビリの一環で格ゲーを始めた。あっと言う間に日々が過ぎたが、まだ純は退院出来ていない。高校は休学のままだ。
格ゲーのおかげで指から順に動きは元に戻ったが、未だ立ち上がることは出来ない。俺っちの脚は下半身は元に戻るのだろうか?純に言い知れない不安が過る。
円形のモダンな図書室に差し掛かった。トルコの有名な建築家のデザインだと新井が自慢気に言う。むろん、純もクー子もザハだか左派だか、トルコの建築家なぞ知らない。
「シャレてるねぇ、ちょッこら覗いて行こうぜ。」
純の提案に新井は少しだけだぞ、と念を押して図書室の扉を開く。正面にはアーチ型の本棚が壁に組込まれており、そこには小難しそうな書籍がズラリと並ぶ。
怯む純にこっちが一番ダヨと、クー子が車椅子を漫画コーナーに進める。火の鳥からスラムダンクまで、昭和平成の名作が一式揃っている。もはや漫画も立派な文化だ。
その奥に自然光を取り入れる為に大きな窓を設えられた一角があった。しかし生憎の曇が差しその辺りは薄暗い。
キンダイブンガク、なんだそりゃ?純が声をあげる。クー子はここだけ湿っぽいネと眉をひそめる。
と、その時、純達がとすれ違った学生が車椅子とぶつかり抱えていた本を数冊を床に落とす。太宰治、芥川龍之介、萩原朔太郎、、
「おい、、拾えよ。」
暗い顔をした学生が純たちを睨みつけた。
つづく
人物紹介
・日乃本 純
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支えている博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・Drケーシー花崎
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを実証中。
・事務長
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。