第61ターン 蘭子、全てお見通しですワ!
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
「オイッ、クー子。本当にバレないンだろうな?」
「ダイジョーV、この姿なら大丈夫だって。」
花崎の妹、蘭子の挑発に乗り、再び格ゲー対戦を巻き込まれた純。今度は花崎家の家督を賭けた闘いだ。
当然、姉の音々は大反対した。クー子ちゃんを助ける為に格ゲー対戦を許したのは一度だけ。そう強弁して聞かない。
が、そのクー子を実質的に救済したのは花崎の大活躍。そして今度は花崎の命運を決める闘いなのだから、なんともヤヤコシイ。
お姉さん、もう一度だけ日乃本クンの力を貸してほしいと花崎から懇願されると、音々も肯かざるを得なかった。
それにしても姉ちゃんはオカシイ。格ゲーに大反対な癖に、ここぞと言う時に大事なヒントをくれる。
ナニワ兄弟との闘いでも、奴らの弱点をいち早く見抜き教えてくれた。変だ。姉ちゃんはきっと何かを隠しているに違いない。
それにしても2週間の猶予があるとはいえ、対戦相手が分からない。バト2*でどのキャラを使ってくるのだろうか。
[註]本作に登場する架空の格闘ゲーム、ロードバトラー2の略称
純がアレコレ考えているうちにクー子は
車椅子に乗った純と私立サンシャイン学院の門をくぐる。
その姿はナースと患者の体裁。指し詰め花崎の病院で衣装を借りたのだろうか、ジッサイ、純はリハビリ患者なのだからこれはある意味、素の姿。
しかしクー子の入れ知恵か。黒縁メガネをして素顔は隠している。それとも世界的な物理学者に肖ったつもりだろうか。
「でもよ、クー子。いきなりサンシャイン学院に来たからってよ、どうやって対戦相手を探すんだ?」
「純、それはサ、アタシもワケワカメちゃん、タラちゃんでちゅ。でもサ、夢サンがまずは敵を知れって言うじゃん、、、」
焼津から静岡までひとっ飛び。が、サンシャイン学院に入り込んでも対戦相手が名札を付けて歩いているワケでもない。
いきなり困り果てている純とクー子。まるで無計画、無鉄砲な若者達、ボニーアンドクライドだ。
すると突如おカッパ頭の集団が二人を取り囲んだ。何処かしら隣国のアイドルを思わせる少年達。が、よく見ると容姿のクオリティには残念ながら幾分開きがあるようだ。
リーダー格らしき者が純を尋問する。
「怪しい奴、おヌシら何処から来た?」
「コラッ、マッシュルーム!怪しいとか失礼だろ!ずうとるびみたいな髪型しやがって!」
苦し紛れに純が噛みつく。そうだ、二人は明らかに怪しいのだ。
「何だと!この髪型はなぁ、ケイポップの、、あ!お嬢様!!」
「お前達、何を騒いでいるのゴザイマス?この高貴で神聖な学び舎で。」
「も、申し訳ございません!パトロール中に怪しい者たちを見つけましたので、」
マズイ、蘭子だ。花崎蘭子だ。
「アヤシイ、、、何処かで見たような。。あれまぁ、早速泥棒ネコのお出ましでゴザイマスわね。」
花崎蘭子は性悪ソノモノの眼つきで、純とクー子の変装をあっという間に見破ったのだった。
「全てお見通しですワ!」
つづく
人物紹介
・日乃本 純
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支えている博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・Drケーシー花崎
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを実証中。
・事務長
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。