第55ターン 花崎、ハシミコフに苦戦する
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
「ヲタ、慎重に入れ!相手はパワータイプ、火力が尋常じゃぁないゾ!」
夢原の指示か飛ぶ。アイノウ、花崎の操る空手家ゲンはバックステップで距離を取ると、飛び道具の気流拳を放ち相手を牽制する。定石通りの始まりだ。
これを垂直ジャンプでかわすナニワBヒロシ操るハシミコフ。ゲンは気流拳を連発。するとハシミコフが両腕で振り回し、コマのように回転する。
「クッ、やりやがる。」
純がほぞを噛む。純との闘いでもヒロシが見せた気流拳を「すり抜ける」コマンド技の応用。ハシミコフはゲンの飛び道具をかわしながら、距離も詰めてくる。
どうする、花崎のセコンド夢原は対策を考える。今、花崎が出来る技術で何が有効か。ヲタ!バックステップ、ヒリューだ。
ロジャー!と花崎が返事すると同時にゲンがジャンプアッパーカット、飛竜拳を放つ。が、ハシミコフは手堅くガード。ダラ・シン戦で既に目にした花崎の動きは読んでいるようだ。
「オイオイ、幼稚園児みたいなコンボもどき、何回も通用せんで!」
ナニワAキー坊のヤジが飛ぶ。あらヤダ、と花崎の妹が爆笑する。ア〜ハッハッハ、この関西人ウケますワ。
「チョイと!アンタどっちの味方なのだ!?」
花崎の妹に猛抗議するクー子。沸点の低さは彼女の特徴、熱しやすく怒りっぽい、それでいてナウな乙女なのだ。
「ハッ?庶民がアタクシに直に口をきいていいと思ってるの?」
「口は聞かん、耳は喋らん!」
気の利いた諧謔で引っ掻き回す純、クー子とのツープラトンは安定感抜群だ。見事に傲慢な花崎妹の出鼻を挫いた。
「フンッ!何をしてもまるでダメ男くんのお兄様。この試合もどうせ無様に終わるワ。」
ぷいッと横を向く妹。笑いを堪える音々をはじめとした病室の面々。しかし彼女の兄に対する敵愾心は普通ではない。
そんなやり取りをよそに花崎の苦戦は続く。相手は得意の右側からの攻めポジション→。如何にしてこれを覆すか。弱点を自覚したナニワ兄弟がそれを許すはずがない。どうする、花崎。
つづく
人物紹介
・日乃本 純
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支えている博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・ナニワ エキスペリエンス
キー坊とヒロシ。クー子の過去を知る大阪の凸凹コンビ。キー坊はヒンドゥーの行者ダル・シン、ヒロシは旧ソ連のレスラー、ハシミコフを使う。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフなど多彩な格闘家が闘う。某格闘ゲームとは無関係。