第54ターン 初心者ゲーマーの落とし穴
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
暴露、その暴露は二組のチームに微妙な影を投げかけた。
ナニワ兄弟エクスペリエンスは、格ゲー初心者にありがちな、キャラ操作、とりわけコマンド技に得意不得意な側があった。
ナニワBヒロシはコントローラー1で左から右への攻め、ナニワAキー坊はコントローラー2で右から左への攻めが得意。2人きりで対戦を重ねた名残りだろう。
純と花崎の師匠、格ゲーマイスター・夢原省吾は2人にそんな悪い「クセ」が付かないように、初めから一定の間隔でコントローラーを交換させ、右側、左側と交互に練習させた。
結果、彼らはほとんど遜色なく左右どちらからでも技が出せる。サッカーに例えるならば両足とも蹴れるプレイヤー、そんなところだ。
今、ナニワ兄弟の弱点は白日の下に晒されたが、狡くも得意側のコントローラーを握りしめるヒロシ。旧ソ連のレスラー、ハシミコフを選んで臨戦体制だ。
対する花崎はユックリとコントローラー2を握り、金髪に黒い眉が印象的なアメリカン、空手家のゲンをセレクトする。
一勝一敗で迎えた最終決戦。純と花崎のフレッシュコンビとナニワ・エクスペリエンスの決着を病室の皆が固唾を飲んで見守る。クー子が祈る、純が花崎を信じる。
が、独り財団の令嬢、花崎の妹は意地の悪い眼つきで兄を値踏みするかのような顔をしている。
何をしてもアタクシに劣る、ダメダメお兄様。オタクゲームでエース気取りなんてちゃんちゃら可笑しい。見せてもらいますワ、ブザマな負けっぷりを。
レディ〜・ファイ!
祈り、期待、そして侮蔑。様々な感情渦巻く病室に最終試合のゴングが鳴った。
つづく