第51ターン 花崎、初コンボ
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
甲高い笑い声。それは傲慢という字を音にした、そんな響きだ。クッ、一瞬花崎の集中が途切れる。第3ラウンドは始まっているぞ。ダラ・シンの中キック被弾!
「オィッ!突然、乱入してきてお前何ナノダ?」
一本気・正統の系譜、クー子がピシャリと闖入者にお見舞いする。
「厶ッ、なんですの、この下賤のメス猿は?事務長!」
「お、お嬢様、この者はお兄様、誇様の、、」
お前らウルサイ!オタク族*の邪魔すんな!と凄んだ純の剣幕に三人は怯んで黙り込む。そうだ、今は闘いに集中すべきだ。
[註]純が花崎に付けた蔑称、今では友情の証となっている
TVモニターに目を移すと、さっきの混乱の影響か、花崎がやや押されている。距離を取りながら、互いにポジションを譲らないといった戦況。
「ヲタ、落ち着いてチャンスを待て!」
夢原の指示にアイノォウェル、と堪能なイングリッシュで返す花崎。どうやら冷静さを取り戻したようだ。
相手、ビビってんゾ!ビビり、ビビり!煽り倒すナニワBヒロシ、口撃型ツープラトンは健在だ。しかし花崎は意に介さない。
なぜなら、音々の啓示と夢原の指示から、対戦相手ナニワAキー坊の弱点がハッキリ分かったからだ。
それをナニワAキー坊に悟られず、再度、第2ラウンドと同じ展開、状況に持っていけるか。業界最高の軍師、マスター夢原は思案する。
第3ラウンド残り45秒、ナニワAキー坊が操るターバンを巻いたヒンドゥーの行者、ダラ・シンが残り体力で若干優勢な状況。さて、どうする?花崎。
「ホラホラ、兄さん、動かんかったら削られるだけやでぇ!」
挑発しながら、手足の伸びる中キック、中パンチを擦ってくるナニワAのダラ・シン。警戒してか、例のテレポートは使ってこない。このままでは花崎ゲンはジリ貧だ。
「ヲタ。いいか、指示通り動け、やってみろ!」
アイトライ!意を決した花崎。クー子クンを僕がゼッタイに護る、ナニワ兄弟、悪徳債権者を許すものか!
ダラ・シンの伸び伸び中パンチが襲ってくる。
「今だ、バックステップ!」
←←夢原の合図に呼応した花崎。ダラ・シンの中パンチをかわし、
「飛竜拳!!」
花崎は方向キーを滑らかに→↘→四半旋回させ、間を空けず中パンチボタン△を押す。見事なカウンターがダラ・シンにヒット!体力ゲージがグッと減る。
ゲッ、ゲエー!下品な呻き声を上げるナニワAキー坊。戦隊モノの悪役顔負けだ。
「やった!、ス、スゲェ、今の何だ!?」
驚く純にマスター夢原がサラリと語る。
「コンボ、コンボの一種だ。初歩の初歩だがな。」
ミーが、このミーが、あの「コンボ」をやったのか?驚きを隠せない、興奮した様子の花崎だったが、その表情は次第に自信に満ちたものに変わっていった。
つづく