第44ターン 俺っち、敵の殺気を読む
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
あっさりと二本目を取り返したナニワB。純と1対1のイーブンだ。セコンド夢原は純にシンプルなアドバイスを送る。
すぐに第3ラウンドが始まる。試合中のプレイヤーに細かい指示は却って逆効果だ。とりわけ劣勢の場合は混乱を深めることになる。
レディ〜ファィ!ついに決勝ラウンドが始まった。純は愚直にバックステップで距離を取り、気流拳を放つ。
「コイツ、未だやっとるわ、ナントカの一つ覚えやな」
呆れた口調でナニワAキー坊が純を侮辱するとクー子が猛然とネイティブの大阪弁で反撃する。
「ウルサイわぁボケェ!余計なこと言うとらんと家帰って寝さらせカス!!」
目が点になる夢原と花崎、あらッアタシったら、、とお淑やかムーブのクー子。コントのような展開は殺伐とした格ゲーの世界にあって一服の清涼剤だ。
とまれ、純とナニワBの闘いに注目しよう。
ハシミコフが気流拳をガードしつつ、さっきのように前進してきた。ここで純が夢原の指示に従い戦法を変えた。気流拳は連発しない。
「飛竜〜拳!」
見事、純・リョウの必殺技が火を吹いた。ぶっ飛ぶナニワB・ハシミコフ。対空技の飛竜拳はタイミングさえあれば地上戦でも有効だ。ハシミコフの体力ゲージがグッと減る。
「ホワット?マ、マスター夢。これは、、テルミー」
花崎は驚きを隠せない。夢原は得たりと言う顔つきで斯く語る。
「ガードした相手が瞬時ガードを外し、前に出て来る。この絶妙なタイミングで純は飛竜拳を打ち込んだんだ。」
敵の呼吸を読む、これもまた格ゲーの極意。攻守交代。まるで敵同士で踊るアルゼンチンタンゴのようなものさ。夢原は洒落た事を言ったが、拳法を長く修めた純にとっては約束組手の要領だったのかも知れない。
つづく