第31ターン 俺っち、コントローラーと友達になる?
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
コントローラーは友達、片時もコントローラーを手放さないこと。格ゲーのみならずビデオゲームに慣れ親しむ為にはこれが一番。夢原は弟子となった純と花崎にそう教えた。
しかし、いつもコントローラーを持ち歩くなんて現実的ではない、側で見ているクー子には純と花崎のクソ真面目さが滑稽に思える。
なんせ二人はその後の数日間、張り合うかのようにコントローラーをいつも携えていたようだ。
見舞いに訪れると純はいつもコントローラーを握っている。トイレに行く時も持っていく有り様だ。
対戦後、花崎も純の病室に冷やかしに来るようになったが、彼もまたいつもコントローラーを手にしている。
二人して師範の言に忠実なのは良いが、むしろそのコントローラーを使って格ゲーをしている姿を見ない。
「ちょっと、純。コントローラーと友達になるのはいいけどサ、夢サン、いつになったらゲームの練習させてくれるノダ?」
お節介なクー子はたまらず問いただした。
「クー子、俺っちもワケワカメなんだけどサ、夢サンはコントローラーと友達になったら、大事な時に冷静でいれるって言うんだよ。」
少林寺でいう不動心みたいなものかもな、と純なりの講釈を垂れると、クー子はそんなものかしら、ワーカメ好き好きピチピチ、と懐かしいCMの一節を口ずさんで純の低俗なギャグを拾いながら疑問符を付ける。
「ま、対戦禁止の俺っちにはあんまり関係ねぇけどな。」
と、そこに花崎が現れた。憤まん遣る方無い表情だ。
「オイッ、オタク族*。どうしたんだヨ、へんちくりんな顔して。」
[註]すっかり定着した花崎のニックネーム
良く見ると、右手にはコントローラーが握られている。しかもそれは激しく損傷している。
学校で、、負けた。格ゲー、負けて、、
肩を震わせながら俯き、言葉を絞り出す花崎。
「!まかさ、アンタ、、」
クー子が全てを悟った時だった。
「やっちまったな。」
いつから居たのか、ドアの影にいたのは夢原だった。
負けの怒りに任せてコントローラーを投げつける、そんな奴は決して強くなれない。格ゲーで一番大切なものは冷静さだ。
窮地に追い込まれても耐えぬける心の強さだ。
夢原は純と花崎を睨みつけながら訓示した。そしてこう付け加えることを忘れなかった。
「お前らは友達を投げつけることが出来るか?」
つづく