第29ターン 夢さん、コーチのオファーを受ける
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
純は確かに聞いた、声を。純を助ける指示の声を。初めて垂直ジャンプを学んだ時。そして今回、相手のコマンド技を潰した小パンチを挟んだ時。
それらは姉の音々が純に咄嗟に授けたものだと思っていたが、その声の主は音々ではなかったのか、、じゃ一体誰の声だったんだ?
「、じゃ俺はこれで失礼するぜ。純ボォ、アバヨ。」
夢原はそう言うと病室のドアノブに手を伸ばした。これに待ったをかけたのが、花崎だった。
「ヘイ、ミスターレジェンド!そう言わずにさぁ、ミーのコーチになってくれないか?格ゲーのさ。」
純との対戦を通じて格ゲーの楽しさを知った感のある花崎。ブルジョアの子息らしく相当に飽きっぽいタチだが、格ゲーはどうも違うらしい。
困ったな、俺は格ゲーを捨てた身。教えること等何もない、固辞する夢原。しかし花崎も諦めない、花崎家の執事を兼ねる事務長もネバってくる。
「夢原サン、滞納している治療費の自己負担分及び保険不適用の食事代、雑費。お支払いはしばらく待って差上げてもよろしいですよ。」
と言って、コホンと咳払いする。懐事情が厳しい夢原にとっては願ってもないオファーかも知れない。
しばし思案顔をしていた夢原が意外な提案をした。
「いいだろう、格ゲー、教えてやる。ただし、純も一緒だ。純と二人で格ゲーを学ぶんだ。」
つづく