第207ターン IKA国際格ゲー連盟
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「俺っちのオヤジが消えた?どういうことだ、童顔おじさんッ!」
Dr.木浪の驚きの告白に揺れる純のハート。これに木浪が遠慮なく追い討ちをかける。
「うん、、吾輩としてはタイヘン言い辛いのだが、、、ヨシッ、消えたというよりは逃げたのだよ、大事な研究データを持って。そう、トンズラしたのだよ、日乃本タケルは。」
「ウェイト!逃げたとはどういうことだ、日乃本タケル氏を貶しめるつもりか、ユーライ!」
チーム夢原のカピタンにして純の兄貴分、花崎 誇が怒声を発すると、冷静沈着な蛭田恭介も顔を蒼くして引きつった笑いを浮かべる。木浪に躙り寄り、オマエ赦さねえ。
「ま、待ちなさい、青少年たち!そんなに怒るものじやなあい。吾輩は吾輩にとってのジジツ、そう事実を言ったまでだ。ヨ、ヨシッ。」
そんなに感情的になられたら、吾輩、これ以上話は出来ないな、と言ってプイッと背を向けてみせるオーソリティ木浪伸之介。
「消えたとか逃げたとか、そんなことはあなたの主観だ、Dr.木浪。私達チーム夢原はエース純の父親にして格ゲーマーの始祖、日乃本タケル氏のその後を知りたい。」
ちょっとエッチな専任コーチ、ム〜ドが年長者らしくプレイ同樣冷静に対話を継続する。あなたには語る義務があるのだとDr.木浪に訴える。すると意外な人物もチーム夢原に助け船を出す。
「ねえ、木浪センセ、アタクシも日乃本タケルのその後が知りたいですわぁ。教えてたも〜れ、アモーレミーオ♡」
なんと花崎蘭子が品をつくって木浪に懇願し始める。真意は不明だか、馬鹿ゲーマーと嘲っていた純の助太刀をする。
もう分かった、分かったと手を煩そう振るDr.木浪。女学生の色香に惑わされるこの木浪伸之介ではないッと、一喝。蘭子のお色気殺法の不発にアハハと快活に笑う下町の太陽ことクー子。
チミらが信じようが信じまいが吾輩は事実を語る、ジジツを、と言って木浪は続けた。
「日乃本タケルがデータを持ち去り、しばらくして吾輩のところに脅迫状が届いたのだよ、イカから。」
イカ?顔を見合わせるチーム夢原の面々。神獣倶楽部や蘭子も意味不明と目を丸くする。一人ルンペンのオッチャンだけは例のしたり顔を崩さない。
オイッ、イカとは何だ?ちょび髭おじさん!堪らず純が木浪に問いかける。
「イカはイカだよ。IKA、インターナショナル・格ゲー・アソシエーション、略してイカ、だ。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。ドクター花崎に恨みを抱いていた。
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・木浪伸之介
脳外科の世界的権威。日乃本 尊と繋がりのある人物。格闘ゲームのリハビリ応用を研究していたようだ。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




