第205ターン Dr.木浪の独白2
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
ビデオゲームを医療に応用する、突飛な発想ではあったが日乃本タケルと木浪伸之介はその夢想に熱中した。
ビデオゲームが要求する反射神経や記憶力、瞬時の判断力や次の展開を読む想像力。これらが脳の所産であることは言うまでも無い。
では、脳の機能不全、とりわけ外傷による脳機能の損傷へのリハビリテーションにビデオゲームを活用出来ないか。
「医者になって間のない吾輩は日乃本クンと深夜のゲーセンで語り明かしたものだよ。」
懐かしそうに往時を振り返るドクター木浪。そこに万事物知りのルンペンのオッチャンが、つい余計な合いの手を入れてしまう。
「当時、90年代初頭はゲームオタク、なんて卑称もあって、ゲーマーは下に見られていたからな。」
「そうそう、オタク全般がそれなりに受け入れられている今日なんてのは、当時からすれば隔世の感がある。ビックリしたなあ!」
少し戯けた木浪に、そういうこっちゃ、アイドル気取りのアニソン歌手にも堀江美都子の奮闘を知ってほしいわ!と、オッチャンも趣味人の横顔を覗かせる。
「オイッ!オッサン達、関係ねぇ話になっちまってるぜ、俺っちのオヤジの話を聞かせてくれよ!」
「ドント・ジョーク!おふざけが過ぎる、トゥーマッチ!」
当然のように純や花崎からクレームが入る。これはイカンとドクター木浪が話を元のレーンに戻す。
「ヨシッ。そのうち吾輩たちは実験を始めるようになったんだよ。大学病院の計器を利用してビデオゲーム、とりわけ格闘ゲームをしている時の脳の働きをモニタリングし始めたのだよ。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




