第204ターン Dr.木浪の独白1
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「曰く有りげな物言いやな、しかし真実は辛くとも語らざるを得ないんとちゃうか、ドクター。」
遁走していたルンペンのオッチャンが再登場し、Dr.木浪にやんわりと迫る。このあたりの間合いやタイミングには絶妙なものがある。天性のファシリテーター、それがオッチャンだ。
そんなオッチャンに木浪は一瞥をくれると、ゲーミングチェアをくるりと回し純たちに向き直った。
「そう、彼は、タケル君は協力者だったのだよ、吾輩の研究の。」
観念したのか、Dr.木浪がトツトツと語りだした。格ゲーの始祖、日乃本タケル、純と音々の父親について。
「吾輩たちの出会いは90年代初頭のアーケード、吾輩は若きゲーマーだった。」
木浪は日乃本タケルとの日々を、時に情熱的に、時にノスタルジックに語った。
二人がアーケードの格ゲー対戦で出合ったこと、対戦を重ねるうちに親しくなったこと、そして二人で格ゲーを医療に応用する実験を始めたことを。
「最初は冗談みたいなものだったのだよ、ビデオゲームを医療に応用なんて。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




