第20ターン 火を吹け!俺っち初のコマ技
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
花崎との再戦の日がやって来た。花崎の帰宅に合わせて夕方からのマッチメイクとなったが、いつもどおりドクター花崎と花崎家の執事が同席した。
純の応援団はクー子と姉の音々。そして同室の患者数人が物見遊山でテレビモニターを囲む。
キャラ選択画面、純と花崎はそれぞれのファイターを選ぶ。空手家リョウとゲン、あたかも二人のライバル関係を投影したかのようだ。
「ユー、逃げ出すかと思ってたよ。その点だけは褒めてやる。」
花崎が挑発してくる。既に闘いは始まっているのだ。後で吠え面をかくなよ、一瞥する純。珍しく冷静だ。
たとえビデオゲームとはいえ勝負事。少林寺拳法で鍛えた肉体派の純は、ゲーム好きのオタク族なぞに負けるはずがない、そう信じているのだろうか。
それぞれの応援団が固唾を飲んで見守るなか、ついに再戦の火花が切って落とされた。
レディー、ファイ!
花崎が操る空手家ゲンがバックステップで純のキャラ、リョウと距離を開ける。そして得意の飛び道具、気流拳を放つ。
純はそれを垂直ジャンプでかわす。また花崎ゲンが気流拳を放ち、純リョウがかわす。
花崎は前回同様に焦れて飛び込んで来る純をジャンピングアッパーカット、飛竜拳の餌食にする算段だ。
このままでは前と同じ展開になる、純はどう打開するのか。その時クー子が叫んだ。純、今よ!
垂直ジャンプから着地した刹那、純は方向キーを↓↙←と滑らし同時に(✕)を押す。
「レップーキャク!」
画面の中のリョウが叫ぶとコマのように回転しゲンとの距離をグッと縮めた。純が初めて対人戦でみせたコマ技に、病室には驚きの歓声が谺した。つづく