第199ターン 激突!第3ラウンドの結末は?!
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「め、めくれねぇ、、なんでだヨ、、」
コントローラーを握る純の両手から力が抜ける。確信した勝利がその掌からこぼれ落ちていく。
必殺の「めくり」に対応してみせた神獣倶楽部の青木。残り時間はあと20秒少々で体力ゲージは青木が操る軍服の魔人カトーが若干上回っている。
「ワッワッワッ!どーするノダ?時間切れで純か負けてしまうノダぁぁ」
「しかし、無理に攻めれば相手の思うツボ、お誂え向きのカウンターの餌食に!ソーデンジャラス!!」
「攻めるべきか、攻めざるべきか、それが問題也、、、」
第3ラウンドの最終盤に至り、チーム夢原の若武者たちに動揺が走る。それぞれの懸念が抑えられず口を衝いて出る。事態を見守るコーチ陣は何を思う。
理論派と呼ばれるコーチmako、その実は勝負師だ。アーケードのジプシー時代、その戦歴はアグレッシブでド派手な決着に彩られている。
勝っても負けても名勝負、それがmakoの信条、信念だ。
一方でちょっとエッチなコーチ、ム〜ドは意外に手堅い考え方の持ち主である。セイント・リカという華やかで瞬発力のある女子プロレスラーを操るが、ファイトスタイルは至って冷静、合理的だ。
格ゲーレジェンド夢原が送りこんだ二つの個性はこの究極の状況にあって、純にどんな指示を送るのか。
「純坊!リスク冒しても攻めなあかんよ!一気に攻め切りッ!」
勝負師makoが純に最後の指示を送ったのと同時に、あの花崎蘭子も青木にハッパをかける。
「あぁぁ〜!何をグズグスしてるの、もぉ!守ってないで格ゲーお馬鹿をトットとトッチメなさい!!」
うおぉぉぉ〜!短気な?女性二人の叫びに背中を押され、画面中央で交差するリョウとカトー。互いの技が激突し共に地面に崩れ落ちたのだった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。