第198ターン めくり、破れたり!青木の秘策
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
右に左に動け。神獣倶楽部の助っ人、花崎蘭子が仲間の不甲斐なさに激昂して叫んだ一言。それが青木にとって意外にもリョウの「めくり」対策へのヒントになった。
「!なぁ〜る程、その手がありました!ムフフフ。」
青木はそう言うと純に向かって「めくり」で攻めてこいとあえて挑発する。
「どうしたんですか?馬鹿ゲーマー。スカートめくりは飽きちゃったんデースーカ?」
なんだとぉ!言われなくてもやってやるぜ似非ガイジンと、純が親指を方向キーの右上に滑らせ、リョウが斜めにジャンプする。
すると青木はそのタイミングで方向キーを防御の反対側、則ち通常では攻め方向あたる左を親指の腹で押した。
リョウの中キックの脛が、カトーの頭部に見事にヒットするも、その瞬間だけカトーはちょうどリョウに背を向け通常防御の反対側のガードに成功する!
「ホワイ?!めくったハズなのにどうして防御されてしまう??アンビリーバボー!」
チーム夢原のカピタン花崎は驚きを隠せない。さっきまでゴッキゲンだったクー子も想定外の展開に事態を掴みかねている。
「どうしてガードされたノダ?反対の反対は賛成ナノダ?」
「左攻めのカトーの防御方向は左→、が、逆攻撃に相当するめくりに対しては右←、つまり進行方向が防御キーになる寸法也か。」
理解力に長けた蛭田が端的にアナライズする。まさに日乃本氏がカトーのテレポート移動攻撃に対処したのと同じ理屈。
「、、やるぢやねえか、珍獣倶楽部、、」
大別すれば裏ワザに類する「めくり」の無双ぶりに自信を深め、青木・カトーの攻略に手応えを感じた矢先の挫折。
「格闘ゲームの神様はボウズに簡単には勝たせてやらんようやな。」
ルンペンのオッチャンがしたり顔で独りごちた。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。