第195ターン 俺っち、悪の試合巧者にハメられる
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
初見だった相手の特殊技を一瞬の判断で防御してみせた純。この即興性にワワッと会場のボルテージが加速する。
「グレイト!防御と立ち回り、基本トレーニングの反復が実ったカタチですね!」
興奮気味に解説する花崎を横目に、コーチmakoは引き続き対戦に集中する。果たして神獣倶楽部の青木はこれで終わる男なのか。
苦し紛れのバックステップで距離を取り直す青木・カトー。純・リョウは飛び道具の気流拳を繰り出しプレッシャーをかける。
「クッ、ヤリますねぇ日乃本純。やはり格ゲーマーの始祖、タケルの息子、、」
奥の手が封じられたせいか、驕慢を絵に書いたような青木が弱気を見せる。気流拳をガードで耐えながらも次なる技のチョイスには迷っているのか、プレイが消極的に映る。
「ヘイヘイッ純!一気に珍獣倶楽部をやっつけちゃうノダ!」
ゴーゴーを踊るかのような、クー子のゴッキゲンな声援も飛び出して、いよいよ純の勝利が見えてきたようにも思える。関帝廟のブースター達も純・リョウの快勝を待ち望んでいる。
おうよ、一気にカタをつけてやる!そう純は叫びリョウが前ステップでカトーとの距離を詰めると、選択肢が無くなった青木はまたぞろワープ技に固執する。
サイキック・ワープ、てまたかよ。。それはガードが出来るんだって。純はもう一度カトーのワープ先に方向キーを入れて巧みに背後からの攻撃に備える。
「ハマりましたねぇ!単細胞クン!!」
ヒャヒャヒャ!不快指数200%男、青木がヨダレを垂らさんばかりの顔に豹変する。気弱な発言はブラフだったのか?
「マズいッ!あえて誘ってからの投技狙い也か!」
戦略眼には定評のある蛭田が青木のタクティクスを喝破したが、時既に遅し。
青木・カトーが防御で身構えるリョウを片手で掴み上げ、反対方向に投げつけるとリョウの体力ゲージがグッと減り、残り30%くらいになってしまった。
「クククッ、これでまたこちらが有利になりましたねぇ。さぁ、ユックリいきましょうかぁ!」
青木・カトーの巧みなゲームプランでまたしても劣勢となった純。対戦残り時間は約30秒程。時間切れを仄めかし、純の焦りを誘発する試合巧者の青木。流石は神獣倶楽部の最終兵器だ。
攻めなくては敗北する絶対絶命のピンチの中で、敵にコンボ技を仕込むことができるのか、「間合い」を巡る純の旅は未だ終わらない。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。