第194ターン 「そういう仕様なんで」
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「オイッコラッ!珍獣、後ろから卑怯だゾ!」
純の怒声に珍しく神獣倶楽部の青木が感情的に反発する。
「だってゲームでしょ!そーゆー仕様なんですよ!!」
ホワイ、なぜあんなに怒っているんだ?カピタン花崎が苦笑すれば、彼奴の大事な何かに障ったのであろうか、と文人ゲーマー蛭田が吟じる。
「オイッ、珍獣!いいか、もう二度と後ろからは攻めんなよッ!」
純の無理な相談に、約束はできないねッ!と気圧されながらも健気に反発する不快指数200%男、青木。この場面では、ベビーフェイスの純が一方的に理不尽だ。
とまれ、青木・カトーのワープ作戦に対処が求められる純が操る空手家リョウ。
「純坊、ワープのコマンド入力は結構ムズいよ!だから、、、」
コーチmakoがアドバイスをした瞬間、魔人カトーがまたしても画面から消えた!
「サイキック・ワープ!」
リョウの背後に回り、いっただきまぁ〜ス!と、再びスライディングキックを繰り出す青木・カトー。
「おんなぁじコトすんじやあねえ!このマンネリズムッ!!」
青木の動きを見事に読んだ純がカトーの攻撃をガードで防いで見せた。カトーが消えた瞬間に反対方向にキーを入れれば、背後からの攻撃にガードの対応出来るようだ。
「僅かなコマンド入力の間を見切ったのか、純坊ッ!」
ム〜ドが興奮気味に確認すると、鼻をこすって純がチャけてみせる。
「まッ、そういう仕様なんで。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。