第193ターン 魔人カトーのサイキック・ワープ
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
奇襲に失敗した青木・カトーは懲りたのか、純・リョウと距離を保ち守備的な立ち回りに変えてくる。
「ストレンジ、、大人しくなった長広舌の青木がどうも不気味だ、、」
チーム夢原のカピタン花崎が訝しむが、いずれにせよ攻撃を仕掛ける必要が生じてくるのは、純の方である。約100秒の消耗戦は未だ始まったばかりだ。
「純、珍獣倶楽部*が攻めて来ないなら、時間切れを待ってやればいいノダ!」
[註]神獣倶楽部の青木を揶揄したもの。
クー子が純に悪知恵を授けるが、それは得策ではない。意図しておよそ1分間を守り切れるほどには純のディフェンス技術は成熟していない、コーチmakoが諭して続ける。
「純坊、相手はカウンター狙いに切り換えたで。慎重に間を詰めて、自分の距離を作りぃ!」
それが出来れば苦労しない、珍しく苦笑いして、前ステップでカトーに素早く近づく純・リョウ、その刹那に
「サイキック・ワープ!!」
青木・カトーが叫んだかと思うと、カトーは一瞬画面から消え、なんと純の背後に現れたではないか!
「ギョギョ!珍獣が消えたノダ〜!」
そしてクー子の絶叫と重ねるように、カトーがリョウの背後からスライディングキックをお見舞いし、リョウに強かダメージを加える。
「ウウッ、ワープも使えるみたいだな、、」
苦しそうにム〜ドが呻く、決して簡単では無いコマンド入力だが。makoもいっそう厳しい表情に変わる。このトリッキーな移動技への対処はかなりの訓練を要するが、純には未だそのスキルは無い。
事前キャンプでそこまでの落とし込みに時間的な余裕が無かった。makoはポリシーとして付け焼刃ではない、防御や立ち回りの基本原則を純たちに授けたつもりだが、果たしてそれを応用出来るか。
プレイ中の想定外にはプレイ中に対処するしかない、純は格闘ゲームの黄金律をあらためて問われることになった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。