第191ターン 第三ラウンドついに開帳
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
チーム夢原のカピタン花崎は父親の目論む格ゲー・リハビリ案件に関わるつもりは毛頭無いが、その背景に何か陰謀めいたものを感じずにはいられなかった。
事務長がわが父、Dr.ケーシー花崎に恨みを抱き復讐心を心の内で燃やしていたとしても、その反逆はせいぜい研究の進捗をリークするぐらいのことだった。
よしんば研究結果を全て横流ししたところで、積み上げた実践がなければ応用段階で忽ち立往生してしまう。学術誌に発表したところで後が続かない。
何よりあの日付の違い、木浪伸之介ゼミの研究が父ケーシーの研究に先行していたのだとすれば、それは一体、、、単なるリハビリテーションが目的だったのか。
真相の取っ掛かり程度であっても神獣倶楽部が知っているなら聞いておきたい。
「両者、話はついたか?」
レフェリーのピカピカ先生が厳かに純と青木に確認する。二人はその問いに返事するのように、コントローラーを掴み、握って最終決戦に備える。
「それではチーム夢原と神獣倶楽部の大将戦、第三ラウンドを始めてますッ!」
レディ〜ファイ!の掛け声と同時に純の操る空手家リョウと青木の選択キャラ、軍服の魔人カトーがバックステップで距離を取る。最終ラウンドも両者とも手堅い入りとなった。
例によって純・リョウは飛び道具、気流拳で相手を牽制するのか。否、どちらかというとガードを固め、カトーの出かたを窺っている。
第二ラウンドの終盤のように、自ら画面端に入り込むような失態は二度と繰り返してはならない。アグレッシブな入りはリスキーだ。
さりとてジッとしているだけでは勝利は覚束ない。如何にしてカトーとの距離をつめ、コンボを差し込むか。
ヘタに距離を詰めることが出来ないジリジリとした緒戦の緊張感のなかで、純は花崎のプレイを思い出していた。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。