第19ターン 特訓、俺っちの烈風脚!
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
夢原がコマンド技、烈風脚を伝授する。純は言われたとおり方向キーを↓↙←の順に入れながら(✕)ボタンを押す。
一度目。上手く技が出ない。どうも方向キーの入力がスムーズじゃないようだ。夢原が純を叱咤する。
「固い!固いよ、ボォズ。指は滑らかに、滑らすように。分かる?さぁもう一回チャレンジ!」
「滑らかに、滑らすように。ようし、、」
純が再度、烈風脚にチャレンジする。また技が出ない。今度は(✕)ボタンが遅いようだ。
いいか、よく見てろと夢原が手本を見せる。コントローラーを握る夢原に酔いどれの顔はない。
純とクー子がテレビ画面に釘付けになる。
夢原が操る空手家リョウはレップーキャク、と喚きながら画面を右に左にと大暴れする。そのキャラの動きは、まるで魂が吹き込まれたかのように、生き生きとしている。
「左親指の方向キー入力と右親指でのボタン押し、このタイミングがコマ技を出す基本だ。」
「感覚で覚えろ。考えるな、感じろ、だ。」
夢原の言葉に純は黙って頷く。格ゲーの格言か、クー子は自分のダジャレにほくそ笑む。
考えるな、感じろ、そう反芻すると純は思い切ってコマ技を入力した。画面の空手家リョウがコマのように回転して蹴りを連発する。
で、出来た!烈風脚、クー子が手を叩く。夢原がニヤリと頬を撫でる。純、初めてのコマ技だ。
やったぜぇ、歓喜した純が叫ぶ。
夕陽が射し込む病室に鳴り響くレップーキャク!の声。他の入院患者の迷惑も顧みず、純の特訓は続く。
これにストップをかけたのは姉の音々だった。
「純、夢原さんはそろそろ退院の手続きがあるわ。ねぇ、夢原さん。」
「ええ、まあ。」
はい、今日はもうお開きよ、とやや強引に特訓を終わらせる音々。純、かなり上達したんじゃない、といいながら夢原に出したお茶を片付ける。
何か言いたげな夢原だったが、それでは失礼とコントローラーを置く。姉ちゃん、もう少しいいだろと純が粘るが取り付く島がない。
帰り際、夢原はドアの所で振り返り、お達者で、と言った。それは音々に言っているように、純には聞こえた。
つづく