第188ターン 俺っち、画面端でアバレる!
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「ググッ!殺られちまう、makoちゃん、どうすればいいんだよ??」
画面端に詰められ動くことが出来ない純・リョウ。青木・カトーのコンボ技に手も足も出ないまま、みるみるうちに体力が削れていく。
「ワッワッ!リョウの体力がぁ〜!コーチ、なんとかするノダぁぁ!!」
クー子が堪らず救いを求め、花崎もホワイ!このゲームシステムに意義ありッ!と詮無いクレームを発する。パニックに陥ったチーム夢原。純の勝利は目前にあったが形勢は一気に逆転した。
会場の観衆も攻守が突然変わったことについていけていない様子で、ザワめきの波紋が広がる。が、ルンペンのオッチャンだけは泰然として画面の闘いから目を逸らさず、その鋭い眼光を送り続ける。
「なんとまぁ杜撰な。クククッ、画面端を知らないなんて、やはりド素人デスマス調〜!」
口も滑らかに不快指数200%男、青木龍一郎が逆転勝利の仕上げに入る。
「これで終わりだ、日乃本純!日乃本タケルの息子も大したことは無かったなぁ!!」
そう啖呵を切って青木がコントローラーの方向キーを←に入れた刹那、、コーチmakoが叫ぶ。このタイミングを待っていた。
「純坊!小キック連発、しゃがみ小で暴れるんや!」
アバレ、暴れ。また聞き慣れない言葉が現れたが今は気にしていられない。とにかく、純はmakoの指示を通りに素早く指先を弾く。
すると、ペシッ、ペシッ、とリョウの小キックが魔人カトーを擦り、なんと無限にループするかに見えたカトーの技の連続が止まった。
「ヒリュゥ!」
makoの短く鋭い指示に反射的に純が反応する。間髪入れずリョウが必殺のコマンド技を繰り出す↓↗→△
「飛竜〜拳!」
画面端でのカトーのコンボ攻撃をすんでのところで終わらせた純・リョウ。即座に再逆転の秘技を叩き込んだ。
「ウギャャャァァァ、、、」
体力がゼロになった魔人カトーの断末魔の叫びがフェードアウト。日乃本純は拳を突き上げ、シャア!一つ咆哮する。第2ラウンドは激戦の末、純・リョウが勝利をもぎ取った。
リョウ、ウィン!!
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




