第187ターン 戦慄の画面端、地獄の子守唄
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「オイコラッ!恥とはなんだ、恥ずかしいのはお前ら珍獣倶楽部ナノダ!」
直情径行のJK、クー子が純の汚名を晴らさんと猛抗議する。恥との言葉に純が貶められたと思ったようだ。
「違う、クー子ちゃん。画面端、モニター画面の端っこという意味だよ。」
クー子専任コーチのム〜ドが愛弟子を優しく窘める。が、その言葉とは裏腹に眉間をシワを寄せる厳しい表情だ。
厳しい表情はmakoも同じだ。花崎とクー子は純に何が起こったのか、未だ分かっていないようだ。
「画面端、小生も聞いたことはあったが、、これが地獄の雪隠詰め也か、、」
バックステップで相手の攻撃を避けることが出来ない、バトルゾーンの行き止まり、それが画面端だ。そこに純は自らその沼にハマってしまったのだ。
「ねぇニヒル、純はどうして逃げれないノダ?行き止まりなんて、オカシイのだッ!」
そういうゲームとしか言いようがない、蛭田は制作サイドに代わって苦しい答弁をしたが、makoが巧みにフォローする。
「言うてみたら相撲の土俵みたいなもんなと思ったらええねん。」
ドヒョ〜!と、くだらないリアクションで驚きを表す下町のコメディエンヌ、クー子。純・リョウの劣勢には何の役にも立たない小芝居だ。
「コーチmako、画面端に追い込まれると、、、テルミー。」
不安げに尋ねたカピタン花崎にmakoはあれを見ろと言わんばかり、形の良い尖った顎をモニターに向ける。
「キヒヒヒ!殴り放題ですぅぅ〜!!」
右の画面端で純・リョウを血祭りにあげる不快指数200%男、青木が操る魔人カトー、コンボの連発に純・リョウは成すすべがなく、瞬く間に体力ゲージが減っていく。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。