第186ターン 俺っち危機!ガメンハジって何だ?
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
対戦相手の得意技に対して効果的な反撃法を確立した純。青木の闇雲ヤケクソな攻撃を巧みに抑えて勝利は目前だ。
「純坊、決めてしまってええよッ!」
コーチmakoからゴーサインが出る。純の操る空手家リョウと青木の魔人カトーの体力差はかなりの開きがあり、純からすればカトーから多少の反撃を食らっても、相手を沈めることは可能だ。
意を決した純・リョウは斜めジャンプでカトーとの距離を詰める。そこにカトーのミドルレンジの中キックがヒットする。雑な攻め口がカウンターをもらったが、そんな被弾は純にとっては計算のうち。画面の右端にカトーを追い込む。
「日乃本クン、手堅く行こう!カームダウンッ!」
チーム夢原のカピタン花崎も的確なアドバイスを送る。中パンチ、中キックあたりを数発確実に差し込めば勝利は見えてくる。
が、この余裕の展開の中でいつもはシビアな純も、つい大技でのフィニッシュが頭を擡げてしまう。関帝廟に集まったファン達を喜ばせたい。そんな生来のサービス精神がピンチを招く→↓↗○
「飛竜〜け、、あらッ??」
純・リョウのフィニッシュブロー飛竜拳が空を切り、偶然にもジャンプを選んだ魔人カトーと画面の端で入れ違ってしまう。左にカトー、右端にリョウ、そんな構図だ。
息を呑み、思わず目を合わせるmakoとム〜ドのチーム夢原コーチ陣。二人の顔色が明らかに変わった。
「クククッ、ハマったな!」
最前まで劣勢で苦しげだった不快指数200%男、青木龍一郎がどうも蘇生したように見える。
「ヴァーカァめ!自ら画面端に来やがった!」
「ガメンハジ!?何だそりゃ!」
得体の知れない恐怖に、純は思わず叫び声を上げてしまった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。