第185ターン 俺っち、必殺技の諸事情を識る
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
狙い澄ました一撃、相手のコマンド技をコマンド技で凌駕する純。魔人カトーのサイキックアタックを十八番の飛竜拳で迎撃した空手家リョウ。
「コマ技同士の相克、リョウに分が有り哉。」
チーム夢原の文士、蛭田が囁くと、それを言うなとコーチmakoが悪戯っぽくウィンクする。
プレイヤー間の技術差か、あるいは制作サイドの諸事情か。何れにしても、バトツー*の主役とボスキャラの必殺技の衝突は主役に軍配が上がった。
[註]本作中の格闘ゲーム、ロードバトラー2の略称
リョウは更に前ステップで距離を詰め、しゃがみ大キックをぶち込む。そして飛び道具の気流拳↓↗→△を素早く入力、カトーに追い打ちをかける。
流れるような技の連続に会場の関帝廟が僅かの間しーんと静まり返るや、瞬時にしてドッと観戦が沸く。カトーの体力ゲージが半分程に減っている。
劣勢の青木は立て直しの為か、バックステップで距離をとってくる。純もここは一呼吸おいてガードを固める。
好事魔事多し。試合を決めてしまいたい純だが、ここは冷静に状況判断のために一呼吸。相手からどんな反撃があるか分からない。
果たせるかな、挽回を目論む青木・カトーは踵落としの連弾←→○に反撃の糸口を求めるが、ガードを固めてこれをブロックする純・リョウ。
「劣勢になるとバタバタと反撃してしまう。これも中堅プレイヤーの悪癖だね。」
都会派コーチのム〜ドがさらりと評すると、勢いづいたクー子が得意の口撃で相棒の純を助太刀する。
「神獣か珍獣か知んないけどサ、大事な時に焦りすぎッ!アレと一緒で経験不足は恥ずかしいゾ。」
と、下町の太陽が捲し立てる。元来が浪花っ子の彼女にとっては、ちょいとエッチな話も平常運転のうちだ。
このキワドい発言に怒り心頭に発したチェリー青木は、がむしゃらにコマ技、サイキックアタック←→△を放つも、コツとタイミングをつかんだ純・リョウの飛竜拳の餌食となる。
青木が操る魔人カトーの体力は残り20%程となり、第二ラウンドの趨勢は概ね決したと言っていい。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




