第182ターン 俺っち、対戦にカムバックする
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「、、、オタク族、オメェを信じるゼ。」
クー子の熱心な説得を受け入れた純は花崎にそう言うと、コントローラーをカチャカチャと操作して、純のプレイキャラ、空手家リョウを選ぶ。チーム夢原のエースが戦場に帰ってきた。
そんな純に静かに頷くチーム夢原のカピタン花崎。ほっとした表情のクー子とニッコリ笑うmakoとム〜ドの新コーチ二人。蛭田は少し目を赤くしているようで意外な一面を見せる。時としてニヒルを気取る彼もまた、ティーンエイジャー真っ只中だ。そして、シタリ顔で微笑む迷?探偵、ルンペンのオッチャン。
「ナンダカ随分とモッタイつけてくれましたねぇ、まあ、どうせ勝つのはこの神獣倶楽部の青龍、私ですが。ウヒヒ。」
例の長広舌で早速口撃を仕掛けてくる不快指数200%男、青木龍一郎。心理戦は既に始まっていると見ていい。青木がバトツーのボスキャラ、軍服の魔人カトーを選びスタンバイする。
厳格なるマット界の統治者、レフェリーのピカピカ先生が純と青木の両名に目配せして対戦の開始を合図する。
純、頑張って!姉の音々が心の中で祈る。いつしか彼女は弟が己の宿命を受け入れ、格ゲーマーの始祖、父の日乃本タケルに向き合って欲しいと思うようになっていた。
青木に第1ラウンドを先取されている純には後が無い。未だ魔人カトーの攻略法は見つかっていないが、第2ラウンドのゴングは待ってはくれない。
レディ〜ファイ!
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。