第180ターン 謎解きは対戦のあとで
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「でもオッチャン、リークも何も帝国大では格ゲーリハビリの研究をとうの昔からやってたんやで。」
と、コーチmakoが疑問符を付ける。確かにそうだ、Dr.ケーシー花崎の研究は引用されたかも知れないが、格ゲーを医学に応用しようとしたのは帝国大の木浪伸之介ゼミナール、本家本元だ。
まあ、そういうこっちゃ、そこにこの事件の謎と本質が隠れてる、とナニワのポワロも首をひねる。
「オイッ、いつまで探偵ごっこを続けている!対戦を続行するのか、どうするんだッ!」
痺れを切らしたレフェリーのピカピカ先生が角刈りの頭から湯気を出して純たちチーム夢原に確認を入れる。会場の関帝廟からクレームが入ったのか?あるいは会場借上げ料の増額が頭をよぎったのか。進行役でもある彼はビジネスライクに進捗を管理する。
「やかましい!おかしなもみ上げしよってからに。今、話まとめたるわ!」
ルンペンのオッチャンはそう凄むと一転、純に向かって穏やかに微笑むと、純の車椅子をゆっくり押しながら噛んで含める様に話して聞かせた。
「な、ボウズ。確かにオヌシは研究目的の被検体には違い無かったが、裏で絵を描いてたのはケーシーと事務長や。とりわけ、二重スパイをやってた悪の張本人、それは事務長やったんや。」
オヌシの仲間はお前を利用していたとか、そんなんとは違うんちゃうか、オッチャンはそう思うなぁ。
そうルンペンのオッチャン言い終わった時、純の車椅子は対戦ブースに戻っていた。
蛭田恭介があらためてコントローラーを純の前に突き出す。それを黙って受け取る、純。そして花崎の方に目を向ける。
「オ、オイッ、オタク族。俺っちは信じていいんだな、、、」
純の真っ直ぐな問いに答えられず沈黙してしまう花崎。これを意外な人物が叱責する。
「お兄ィ様!なんとか仰ったらどうですの!格ゲーお馬鹿を安心させてやりなさいな。」
蘭子が兄の花崎を厳しく咎める。果たして花崎は純の信頼を取り戻せるのか。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




