第179ターン 格ゲーリハビリ漏洩事件の真相その壱
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
父の命を奪ったのはお前だ。事務長の激白にDr.ケーシー花崎は言葉を失う。端的に言って彼にはまるで覚えがない話なのだ。
「き、貴様!一体なんの話をしておるのだぁ!医療過誤、死亡事故?いい加減なことを言うな!!」
激昂するケーシー。医師にとっては最も許し難い言葉のオンパレードに立場を忘れてブチ切れた訳だが、しかし事務長も怯まない。
「あなたは覚えていないのか!あの日、父が10tトラックにぶつかって救急車で大学病院に運ばれた時、治療にあたったのは当時研修医だったあなただろ!」
そんな昔のことイチイチ覚えてられるか、とは言えないのが仁術に携わる身、医師の辛いところだ。言葉を探すケーシー、そこに意外な所から助け舟が入る。
「ウェイト!ちょい待ちや。事務長はん、どうもアンタ一方的にドクターを恨んでおるんとちゃうか。」
酒場の名ファシリテーター、ルンペンのオッチャンが花崎顔負けのイングリッシュであらためてハナシの整理、状況の整理をし始める。
一方的とはどういう意味だ!と、怒りが収まらない事務長の肩を軽く叩き落ち着けと言わんばかりの表情を見せて、
「つまりや、アンタは親の仇ケーシー花崎に近づき、復讐を遂げる機会を窺っていた、そんなところか。」
フンッと、横を向いて返事をしない事務長。が、全面否定しないところから遠くないところのようだ。
「で、アンタはドクターの実験に協力しながらも、その大事な研究成果を帝国大の木浪教授に逐次リークしてたというわけや。」
そして有頂天のDr.ケーシー花崎を地獄に叩き落とすべく、論文発表の直前に学術誌への寄稿を木浪教授に勧めたちゅうことか。
このハナシ、だいぶと見えてきたな、ルンペンのオッチャンはそう独りごちるとコーチmakoに向かってニヤリと微笑む。それでも未だ謎があるでえ。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。