第177ターン 急展開、事務長の独白
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「し、失礼なッ!アタクシが帝国大の論文を盗んだとでも?事務長、自分の立場を弁えなさい!」
事務長から嫌疑を向けられた蘭子が猛然と反論。これは、、さる筋から拝借したのものと強弁してみせ、そうでしょ?新井!と、なんとなく新井に罪をおっ被せる試合巧者ぶりを発揮する。
「そうそう、事務長さんや、今大事なのはその資料の出どころというよりは、中身、内容と違うんか?」
ルンペンのオッチャンがハナシを元のトラックに戻すと、事務長があらためて論文の日付について嫌味タップリに解説する。
「ハイ、とりあえずは日付、ハイ。ケーシー先生が格ゲーリハビリを始める十年も前から帝国大の木浪先生は取り組まれていたということでして。」
「ですので、論文が盗まれたとかいうのは、何と言うか、、ケーシー先生のカンチガイ、思い上がりでして、ハイ。」
ぐうの音も出ない蘭子とDr.ケーシー花崎親子。そこに医療法人花崎会の跡取りが立ち上がった。
「ヘイ!じゃ、そもそも我が家の執事たるユーがどうしてドクター木浪と接触していたんだ?エクスプレイン・アス!」
この間沈黙を守っていたオタク族、花崎がついに口を開いた。得意のイングリッシュが出た事からも、幾分か心理面が安定したことが想像できる。
「ぎょぎょ!そ、それは、、その、、」
突然の花崎の追及に狼狽したのか、汗を拭きながらなんとか言い逃れを模索する事務長にルンペンのオッチャンが引導を渡す。
「論文なんてもんは、出したもん勝ち。ご立派なアカデミズムの世界もジッサイはそんなもんやで。その木浪なる人物は自分の研究が遅れをとることを恐れた。そこに事務長、アンタは取り入ったワケやな。」
どうなんや、ええ加減な返答したら承知せえへんで!と、例の藪睨みで一喝する。
そうだ!どうしてなんだと憤るDr.ケーシー花崎。ナゼ帝国大と繋がっていた?
すると事務長は意を決したのか、Dr.ケーシー花崎をジッと見つめながら意外なハナシを始めるのだった。
「どうして?どうしてなんてよく軽く言えたもんだね、花崎さん。あの日、あの夜の医療事故、忘れたとは言わせませんよ。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。